~05~
あっという間に一日が過ぎ、放課後となった。
教室内は帰り支度をする生徒や部活の準備をしている生徒で慌しい。
豪が鞄に荷物を詰めていると、そこへコソコソとやってきたのは千風と美兎だ。
「丹波君っ!」
声をかけたのは千風だった。
少し頬を赤く染めながら照れくさそうに笑みを浮かべている。
「麗加のいとこなんだってね!私麗加の友達の千風、こっちは美兎。よろしくね!」
美兎は緊張した面持ちでペコッと頭を下げた。
「よろしく!」
豪は微笑みながら返事を返した。
「あのさ、ここのトコずっと麗加と連絡取れなくて心配してたんだけど、元気してた?」
麗加の死から再生までの間のことだろう。
「あぁ・・・」
豪はふと昨日の麗加の言った事を思い出す。
『私ハモウ・・・人間デハナイ』
情も持たずただそう言う姿。
豪が黙ってしまったので疑問の目を送り、美兎と顔を見合わせる千風。
ハッとした豪は再び笑みを浮かべた。
「元気にしている。そう言えば、E-noteが壊れたと言って新しいのを最近用意してもらっていたからそれでだと思う」
豪はアドリブでそう答えた。
「そっか、ならまたメールするって伝えて」
「伝えておく。じゃぁまた明日!」
そう言うと豪は荷物を持ち、二人の前を去った。
千風は去り行く豪の姿をその場で見えなくなるまで目で追う。
その目はとても輝く乙女の眼差しであった。
豪が廊下を歩いているとロッカーで部活の用意をしている勇也が気づき声をかけてきた。
「丹波!」
「おう」
豪の前に勇也が駆け寄る。
「そういや名前まだだったよな。俺、邦鷹勇也」
その名を聞いて豪は「そうか、こいつが・・・」と思った。
顔を見たことはなかったが、かつて仁の患者であり麗加の大切な存在であることは知っていた。
真っ直ぐに帰るであろう豪に勇也が訊ねる。
「丹波は部活入る予定あんの?」
「いや、特に決めてはいないんだが」
勇也は手に下げていたスパイクを何気なく肩にかける。
「そっか、俺サッカー部なんだ」
そう言って素直な笑顔を浮かべる勇也に対して豪は好感を持った。
その笑顔を見ると麗加の守りたいという気持ちも一瞬で理解できる。
「足はもう良いのか?」
「え?」
唐突に聞かれ、なぜその事を知っているのかと言う顔をして勇也が驚く。
豪はすぐにその謎を解いた。
「今世話になってるのは田神総合病院の仁なんだ。邦鷹のことは編入する前に少しだけ聞いていたから」
そう聞くと勇也の表情がパッと晴れた。
「マジ!?そうなんだ!!仁先生元気か?」
勇也のテンションが一気に上がった。
が、すぐにそれも下がり苦笑を浮かべる。
「あ、でも・・・俺、病院では結構カッコ悪い事ばっかりでさ。情けなかったな・・・」
勇也は目線を落としながら体を横に向け、都合悪そうに言う。
「ははは、病院とはそういう所だ」
豪に言われ勇也は再び正面を向くと「そうだな」と言って笑みを浮かべた。
不意に勇也の様子が変わる。
何か言いたげにソワソワとした様子を見せる。
意を決したようにすると、豪に一歩近づき小声で囁いた。
「暮内・・・何か言ってた?」
病院で一時一緒だった麗加。
麗加の前では明るく接したつもりだったが、情けない姿を見られていなかったかとずっと気になっていたのだ。
勇也の恥を忍んでいる姿に豪は気を使う。
「何も。元気になったと知って安心していた」
「そっか」
そう聞いて勇也は少し安心した様子を見せた。
その時の表情に豪は何か感じるものがあった。
それを豪は微笑ましく思うのだった。
「やべっ!部活行かないと!!!」
時計を見て我に返る勇也が慌て出した。
「悪いな呼び止めて、また明日な!!!」
「いや、またな!」
勇也は笑顔でその場を去っていった。