~04~
ポーン・・ポーン・・
聞きなれた電子音が鳴り響くと授業が始まる。
「では、今日は人間の臓器について詳しくやっていきます。皆ページの36を開いて」
先生の指示を受け、生徒達は各自所有する小型ノートパソコンを操作する。
教科書など既に存在はしない。
それさえも歴史として授業に出るくらいだ。
今は各教科ごとに一冊ずつ持たなくてもこの小型ノートパソコン一つでいい。
手書きもないため鉛筆や消しゴムなどもコレクターが趣味で持つくらいで日常に使うことは殆どなくなった。
「あ、その前に、皆は人工臓器って考えたことがある?」
先生は生徒たちに目を向けた。
「今は重い病気にかかっても人工・・・つまり機械で出来た臓器と取り替えることによって病死を免れるケースが多くなってきてるけど皆はこれについてどう思うのかな?」
先生はそう問いかけると目が合った生徒を指名した。
「あ、え・・と。ありがたいことなんだと思います」
「ありがたいことね」
「なんていうのかな・・昔はこんなの有り得なかったわけで、それが今では実現されてるから、それって長い時間かけて人が試行錯誤重ねて可能にしてきた。
だけど、それってその分失敗や犠牲はあったと思う。でもそのおかげで今があるから」
「うん、素晴らしい意見ね。それじゃもう一人・・・暮内さんどう?」
「え、はい。」
大体授業中に指名されると生徒は緊張するものだ。
「私は・・・・」
麗加は少し自信がなさそうにうつむいたが思い切ったように発言した。
「自分には必要ないと思っています」
生徒たちが一斉に麗加を注目した。
先生も予想しない発言に興味を示した。
「それはどうして?」
麗加は自分の考えを話し始めた。
「私の叔父は2年前に肺癌で亡くなりました。人工臓器を導入してれば今でも健在だったと思います。
けど叔父は自分の体に機械を入れるのを嫌いました。最後まで『自分』でいたかったんだと思います。
それは自分の運命を変えてしまうことな気もします。
確かに死というのは悲しくて辛くて怖いことなので免れたいとは思うけど、私はそんな叔父を尊敬しています。」
異色な発言にクラス中が静まり、クラスメイトは何らかの興味を示してくる。
「なるほどね、ありがとう」
先生に言われると麗加は席についた。
正直な気持ちだったが、内心では不安な気持ちで一杯になっていた。
最先端医療を否定するなんて確かにおかしいことである。
しかしそんな発言を先生が思わぬ流れに持っていくのだった。
「今の時代大体のことは科学や医学の力で何とかなるけど、人はそれに頼りすぎているのかもしれない。
人工臓器の導入にもそれなりの条件はあるけど、それよりもそうならないことが大事なのよね。
風邪を引かないように、腹痛を起こさないように・・・それでもどうにもならない病にかかってしまう。
その時は頼ってもいい。生きたくても生きられなかった時代が生きられる時代になった。
だけど、その原点初心を忘れてはいけない。それを叔父さんは伝えたかったのかもしれないね。」
そんな先生のフォローに麗加の不安はなくなり、他の生徒も納得の色を見せた。
「話が反れたわね、では内容に戻ります」