~03~
丁度その時部屋の戸が開き、一人の青年が現れた。
麗加の再生を知った豪だ。
「上手くいったようだな」
豪が麗加の元へと近づく。
麗加は豪の方へ目を向けた。
「アナ方ハ、タン波ゴウ。私ヲ・・助ケテクレタ。・・・アリガトウ」
「礼ならこの二人に言うんだな。俺はただ、お前の意志を無駄にしたくなかっただけだ」
麗加は仁と賢の方を向くと静かに頭を下げる。
仁と賢は少し複雑な気持ちを覚えた。
「ところで、こいつは何型になるんだ?」
唐突に豪が賢に問う。
自分やA-D2X型にもタイプがあるように、麗加のタイプを尋ねた。
「彼女のタイプはC-M2X型(cyberg midfilder)で攻守両面型。スポーツに例えて中衛の存在だ」
「どちらにも対応出来るタイプか。なぜこいつも俺と同じAタイプにしなかったんだ?」
「豪には攻撃を重点においた分防御力に優れていない。A-D2X型は防御に優れ反撃力も兼ね備えている。もし二人ともが反撃を食らったらおそらく勝ち目はない。彼女にはそこをカバーする力をおく必要がある」
「フン。まぁ、その力を発揮する間もないと思うがな。俺が一瞬でぶち壊してやる。両面型にした分力が半減して足手まといなんてことにならなきゃいいがな」
豪が嫌味っぽく笑みを浮かべた。
その間も麗加は顔色ひとつ変えずにその場に止まっている。
そんな麗加の様子をその場にいた誰もが気にかける。
しばらくの沈黙を仁が破った。
「二人にはそれぞれ部屋を用意してるから、今後はそこで生活をしてくれ。それと、平日の日中は学校に通ってもらう。必要ないかもしれないが二人は「17歳の高校生」だ、一番無難に外に出られる口実になる仮の姿として。麗加は復学、豪は編入の形で手続きをしておくよ」
何年が経っても少年犯罪が絶えない世の中が続き警察の目も厳しくなっている。
日中出歩き捕まったりすると面倒なことになる可能性がある事を考えた。
「了解した」
豪が返事を返した。
「リョウ解」
麗加も機械的に言葉を返す。
豪と麗加はそれぞれ部屋に向かいその場を去った。
二人が戸の向こうに消えると三人は複雑な表情を浮かべて見送っていた。
「彼女・・・まるで感情がありませんね」
真純が心配そうに言う。
「プログラムはプログラムでしかないんだ・・・」
賢が悲しそうに呟いた。
部屋に向かい並んで歩く豪と麗加。
淡々と真っ直ぐ前を向いて歩いていく麗加を豪が横目で見る。
豪は足を止め麗加に声をかけた。
「おい」
数歩進んだところで足を止め、麗加が振り返る。
それは相変わらず無表情なものだった。
「それではただの人形だぞ。お前には人間らしい部分は残っていないのか」
「私ノ中ニハ「暮内麗加」ノ情報ガインストールサレテイル」
豪の問いに機械的に答える。
「そんな違和感丸出しで学校なんかに通えると思うのか。感情はないのか」
「カン・・・ジョウ」
麗加はしばし黙り込んだ。
人間らしい考える素振りではなく、視線を動かさずそのまま動かない。
チップに埋め込まれた膨大な麗加の情報から検索している。
その姿は機械でしかなかった。
しばらくすると麗加は口を開く。
「沢山ノ感情ガアル。嬉シイ、会イタイ、辛イ、悲シイ、好キ、怖イ、怒リ、幸セ、不安、切ナイ」
豪はフッとため息をついた。
「質問を変えよう。どうだ、蘇った気分は」
麗加は再び黙り込んだ。
先ほどより短い時間で口を開く。
「・・・分カラナイ」
意外な答えに豪は一瞬言葉を失う。
生前に残した麗加の想い。
あれは強い意志だったはず。
まさかと思い豪は問う。
「後悔・・・してるのか?」
再び目を覚ましたことに少しも喜びを見せない。
麗加が望んだことだった。
だから豪はその想いを無駄にしなかった。
今更気が変わったなどと言われては困る。
麗加が静かに口を開いた。
「後悔・・・ソノ気持チハナイ。貴方ニハ感謝シテイル。私ニハマダ失ッテイナイ大切ナモノガアル。守レルモノガアル」
そうは言うが、ちっとも嬉しそうな顔を見せないのだ。
いくらサイボーグと言えども感情は理解している。
表情を作れないはずはなかった。
「タダ・・・」
豪が麗加の行動を理解できないでいると続けて麗加が口にした。
「私ハモウ・・・人間デハナイ。ソウ強イ気持チガアル」
「・・・」
豪は言葉を失ってしまった。
麗加は終始無表情のまま再び歩き出し、部屋へと入っていってしまった。
麗加の思考には複雑な想いが秘められていた。