~02~
話を聞いた仁は麗加の元へ向かい、真純も後を追う。
暗がりの廊下を突き進み安置所の前に来ると、仁もその信じがたい光景を目の当たりにした。
しっかりと閉められた戸の隙間から室内の明かりがこぼれている。
それは部屋の明かりとは別の発光があるとしか思えないものであった。
立ち止まっていた仁は静かに扉へと近づく。
そしてそっと部屋の戸を開けた。
発光の元手を目撃した仁は大きく目を見開き硬直してしまった。
そこに眠る麗加の体は大きな淡い光に包み込まれていた。
その光は麗加の体に無数に絡み付いている。
優しく、丁寧に、労わり、癒す。
まるでそれは蘇生しているかのように・・・。
少し遅れて車椅子に乗った賢を連れ、豪がかけつけた。
その場に佇む四人はその光景を静かに見守っていた。
麗加は、今もなお生きている。
決して戻ることのない鼓動を再び得ようとその身を滅ぼさぬよう、あの力で自身を守っている。
その姿をじっと見つめていた賢の目が変わった。
「皆・・・僕に力を貸してください」
そう発言した賢の方を見た仁は力強く頷いた。
田神兄弟の極秘プロジェクトの始まりであった。
事情を知った真純もプロジェクトに加わった。
かつて仁に救われた真純はどんな事があっても仁の力になるという強い意志を持っていた。
病院と両立させるためにも真純が上手く協力し、麗加再生の時を迎えることとなった。
仁の回想も終わる頃、一つの電子音が鳴り響く。
三人は完成品に目を向けた。
パソコンの画面には「Transfer completion!(転送完了)」の文字が表示されている。
真純がマウスを動かし、ポインタを「OK」のボタンに合わせた。
「起動開始します!」
そう言うとマウスをカチッとクリックした。
キューーーーーーーーーーン!!
高い電子音が鳴り、完成品が起動する。
それはゆっくりと目を開いた。
電源により青く光る瞳は次第に茶系の瞳へと落ち着く。
静かに起き上がり床に足を着いて立ち上がった。
「君の名前は?」
仁が問うと、それは仁に目を合わせ口を開く。
「私ハ、暮ナイ・・・レイ加」
それは表情一つ変えず機械的に、問いに正確に答えた。
三人は安堵の笑みを浮かべる。
容姿は以前の麗加と変わらず、誰が見ても人間である。
皮膚をそのまま移植したことで肌質は保たれた。
だがその皮一枚を捲るとその身は人工素材の塊なのである。
臓器は麗加の死の際に殆どが壊死したため、人工臓器が導入された。
脳にも損傷があったため、麗加の運動・知覚、感情・情緒・理性などさまざまな情報をデータに起こし、チップに全てのデータを転送した。
こうして田神兄弟による医学と科学の力で麗加は蘇りを果たした。