~01~
「ブラフマーが死んだ。そして蘇る」
街が深い闇に染まった頃、一つの人影がふっと囁いた。
長い間光を失っていた一室が、ここ数ヶ月の間眩い光を取り戻している。
関係者さえもその存在を知らされていないその空間に妙な忙しさがあった。
「あと、どれくらいで終わる?」
一人の男が問う。
パソコンの画面を覗き込み残りの時間を確認した女が、後ろに束ねた髪を揺らし振り向く。
「あと15分で転送完了です」
「これが終われば完成だな」
別の男がその完成品を見ながら疲労と達成の色を浮かべた。
そこにいる三人が肩を並べる。
その顔ぶれは良く知る者たちだった。
田神仁、田神賢、そして仁の助手青木真純だ。
ここは田神総合病院の一室。
だが、ここを知る者は病院関係者でも殆どいない。
奥深く閉ざされた密室で間もなく終わろうとしているのはある計画の一部であった。
仁が少し記憶を戻し、頭の中に呼び起こした。
あれは、そう。
一人の少女が死んだ日・・・。
「二人に頼みたいことがある」
仁と賢の元に慌てた様子で現れた豪から思わぬ発言が出た。
「あいつを、暮内麗加を俺と同じサイボーグにして欲しい」
仁と賢は返事に躊躇い言葉を失った。
考える間もなく豪から差し出されたE-noteの画面を見せられた。
そこには麗加のあの日記が表示されていた。
二人はその内容に目を通した。
読み終えた賢が浮かない表情をする。
「ダメだ。僕には出来ない。彼女は死んでしまったんだ。これが彼女の意思だとしても、もう人間の体を改造する事なんて・・・」
賢は更なる罪を犯す事も、科学の才能を活かす事も恐れていた。
これ以上何が起こってしまうか、勝手ながら考えるのも嫌になっていたのだ。
そんな姿に豪は再び怒りを覚え、賢の胸座を掴んで引き寄せた。
「テメーでしたことを中途半端に投げ捨てるのか?テメーの罪はもう許されないんだ。ここまで来たらとことん罪を犯してもらう。この程度で簡単な処刑で済むと思うな!」
興奮する豪を仁が止めた。
「豪、落ち着くんだ。君はどうしてそこまで彼女の事に拘るんだ?」
豪は少し落ち着きを取り戻した。
「あいつは、俺と同じなんだ。あいつは、不思議な力を秘めていた」
「知っていたのか」
仁が言う。
「俺の事も全て話した。あいつは悩んでいたが、俺と同じ答えを出したんだ」
麗加と接触した日々を思い返す。
「けど・・・」
賢がそれでも首を縦に振らないでいると、そこに一人の女性医師が駆け込んできた。
「先生!仁先生!!」
血相を掻いて慌てているのは真純だった。
「どうした?君が来るなんて、何があったんだ?!」
「それが・・・」
真純は息を整え、飛んできた訳を語り始めた。
身寄りのない麗加が死に、遺体安置所へと運ばれる際に真純が付き添った。
その場に麗加を残し部屋を出ようとした真純は、仁が気にかけていた患者だった為足を止めその場に留まった。
そしてもう一度部屋に戻り、麗加の元へと歩み寄る。
二度と目覚めることのない遺体をじっと見つめ、静かに目を閉じ手を合わせた。
数秒のちそっと目を開く。
真純はその時再び目を向けた遺体に違和感を覚えたのだ。
とても死んだ者とは思えない血色の良さがあるように見える。
部屋の明かりのせいかとも思ったが、明かりといっても薄暗い為むしろ血色が良く見えるほうがおかしいのだ。
しばらく様子を伺っていると、やがてその疑惑は確信へと変わるのだった。
麗加の体が淡い光を放ち、そしてその体を包み込んでいく。
信じられない現象が起こり始め、真純は息を呑んだ。
その現象はどんどん増していき、驚いた真純は慌てて仁の元へと向かったのだ。