~33~
静かに扉を閉め、ほっと一息つくと自室に足を向ける。
麗加は毅然とし、すれ違う人間に違和感を持たせなかったがその足はどこか急ぎ足だった。
自室に近づくにつれその歩調は早まり、何かに焦るような、何かを隠すようなそんな面持ちになった。
自室の戸を開け駆け込むように中に入るとダルそうに戸にもたれ掛かる。
その勢いで戸がバタンと閉まった。
「っぅ!!!!」
突然麗加の頭部に激しい痛みが走り、麗加は頭を押さえ込んだ。
みるみる顔色を悪くし、尋常ではない量の汗が流れ出す。
「ぁっ・・・あぁ!!」
痛みに叫び倒れ込み、苦しい表情を浮かべもがくと、そのまま麗加は意識を失った。
「暮・・内?」
朦朧とする意識の中で麗加が居た気配を感じ、そう言葉に発して勇也は目を覚ました。
夢だったのか・・・そう思って再び目を閉じた勇也だったが、『違和感』に気付き再び目を開き体を起こす。
そしてその『違和感』を恐る恐る確かめてみる。
「夢・・・なのか・・?」
勇也は自分の身に起きた『違和感』に驚きを隠せず、何があったのかただ唖然とするばかりだった。
日もすっかり落ち、イエロータウンに発った豪と仁は賢の指示通りのメインハードを運び出していた。
「これで全部か」
豪が最後の一つを運び出し車に積む。
仁は終始、街の有様に圧倒されっぱなしだった。
想像以上の絶大な光景に、改めて恐怖感を覚えていた。
言葉一つ発することの出来ない仁を豪は冷静な面持ちで見ていた。
「仁!」
唖然としている仁に豪は声をかける。
仁ははっ!とし振り返る。
「全て運び込んだ」
豪は顔を車に向け仁に伝えた。
「あぁ、ありがとう・・・戻ろうか」
そう言って仁が車の方へと歩み寄った時・・・
RURURURURU・・・
RURURURURU・・・
仁の携帯電話が鳴った。
着信元は病院からだ。
「はい、仁です」
待ちぼうけを喰らった豪はフッとため息をつき、先に車に乗り込もうとした。
「なんだって??どういう事だ!!?」
いきなり声を荒げた仁に豪は足を止め振り返る。
「とにかく、すぐに戻る!」
尋常じゃない仁の慌て様に緊急事態が起こったんだろうと豪は察した。
仁は車に駆け込んで来た。
同時に豪も車に乗り込んだ。
「急患か?」
豪が尋ねた。
仁は車を起動させながら複雑な表情を浮かべている。
「悪いが急いで戻る・・・」
そう言ってアクセルを全快に踏み込むとけたたましいモーター音を響かせた。
仁が向かうその先ではパニックな騒動が起きていた。
「大丈夫なんだよ!!何ともないんだよ!!」
「邦鷹さん落ち着いて!駄目です!安静にしててください!!」
暴れる患者を必死に止める看護婦。
そんな光景が繰り広げられていた。
絶対安静だった勇也が損傷を受けた足で立ち上がっているのだ。
そして重症のはずの足を気遣うこともなく平然とした言葉を発している。
先ほどまで痛みに苦しんだとは思えない事態に医師たちも戸惑いを隠せないでいた。
「何なんだよ!!俺の足おかしくなっちまったのかよ!!」
勇夜自身が一番混乱している。
程なくして知らせを受けた仁が勇也の病室に駆け込んできた。
しっかりと地に立つ勇夜の姿に仁は目を疑い言葉を失う。
仁が来た事に気づくと勇夜は仁に近づき、仁の腕を力強く掴んだ。
「先生!俺、足おかしくなっちまったのか!?痛みも何も感じないんだよ。痛くねぇんだよ・・・」
勇夜はその場に泣き崩れてしまった。
仁は勇夜の肩に手を置き一言だけ言った。
「君の足は大丈夫だ!」
「・・・?」
断言するように言われ、疑問顔を浮かべる勇夜。
「悪い、他にも急患がいる。彼には鎮静剤を・・・落ち着いたら検査する」
そう看護婦らに告げ、仁は足早に勇夜の病室を去ってしまった。