~32~
とある一室では異様な雰囲気を漂わせていた。
麗加の病室である。
精神を集中させ目を閉じる麗加の掌からは優しい光が溢れていた。
麗加は自身の力をコントロールし、引き出すことが出来たのだ。
しばらくすると麗加の集中が切れ、光もすぅ~っと消えていってしまった。
「はぁ・・・はぁ・・・やっぱり駄目だ・・・」
眉をひそめ悔しそうな顔をして呟いた。
力を引き出すことは出来ても、離れた場所に送ることはどうしても出来なかった。
出来れば誰にも見られない形でこの力を使いたかったのだ。
もちろん勇也の足の治療のためである。
麗加はこの場ではどうにも出来ないと諦め、勇也の病室まで訪れることにした。
仁に見つからないように、そして勇也にも気づかれないように何とか出来るかもしれない。
麗加はベッドから足を下ろした。
「あっ!!」
思わず体制を崩してベッドからずり落ち、床に膝をつく。
思った以上に体に負担になっていたのだ。
しかし麗加は気を取り直してしっかりと立ち上がると病室を出た。
勇也の病室を目指す。
目前まで来た時勇也の病室から一人の看護婦が出てきた。
「あ、あの・・・」
麗加は声をかけた。
「邦鷹君は・・・」
「邦鷹さん、今麻酔が効いて眠っていますよ。」
「麻酔?」
麗加は思わず驚いた。
「痛みが酷かったみたいで、痛み止めを・・・ね。」
「そうですか・・・」
勇也の状態は深刻なのだと察した。
一刻も早く治療してあげたい・・・。
「あ、仁先生は・・・?」
念のために聞いてみる。
「今日は上がられましたよ。弟さんの急用とかで・・・」
仁はいない。
それを聞いて麗加は絶好のチャンスだと思った。
「仁先生に何か・・・?」
黙り込んだ麗加に看護婦が疑問を抱き問いかける。
「いえ、ありがとうございます。」
お礼を言いお辞儀をすると、看護婦は会釈をしてその場を後にした。
麗加は少し辺りを見渡し、勇也の病室のドアをゆっくり開けた。
そっと中に入る。
そこでは静かな寝息を立てて眠る勇也の姿があった。
音を立てないようにそっと二、三歩近づく。
勇也の寝顔に目をやると麗加の胸はギュッと痛んだ。
自分が知っているキラキラした彼の姿はそこにはなく、苦しそうな、辛そうな表情で目の周りがほんのり赤くなっている。
胸が張り裂ける想いだったが、気づかれないうちに済ませなければと麗加は痛々しい勇也の足元に移動した。
目を閉じ、意識を集中させる。
やがて優しい光が麗加から溢れ出した。
より多く、より強く、力を勇也の負傷した足へと送り込む。
それはわずか数分の事であったが、麗加にはとても長く感じた。
想い、力、自分の中の全てをそこに与えた。
フッと光が消えると、重いため息を一つ吐いた。
麗加はもう一度勇也の寝顔に目を向けた。
心なしか表情が柔らかくなっているように見えた。
安心した麗加は気づかれないようにそっとその場を後にした。