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cyber girl ~REIKA~  作者: No_318
運命
31/68

~31~

そんな昨夜のことを少し思い出し豪は黙り込んでしまった。


賢は豪の様子を静かに見ていた。


豪は我に返り再び口を開いた。


「レッドタウンの研究所にも行ってみた。だがやはり何も残っていなかった」


その一言だけを賢に伝えた。


「そうか・・・ありがとう」


その時病室の戸をノックする音がした。


コンコン・・・


「失礼するよ」


入ってきたのは仁だった。


「おかえり、豪」


「あぁ」


賢はノートパソコンの電源を立ち上げキーを素早くはじき出し始めた。


「データがあったのか」


仁が問う。


「データは単体で使えないようにそれぞれ分散して保存がしてある。だからそれをまとめる必要があるんだ」


賢が画面に視線を向けたまま答えた。


暫くパソコンを操作していた賢の手が止まった。


「駄目だ・・・一台だけではとても容量が足りない・・・」


画面にはメモリー不足のエラーが出ていた。


ノートパソコンにA-D2Xのデータをまとめることはとても出来そうにない。


「うちにあるものを集めれば出来そうか?」


仁は院内のパソコンを提供しようとしていた。


「プログラムを組み直さなければならなくなるけど、出来るなら集めて欲しい」


賢が答えた。


「あと、研究所のシステムはまだ稼動した?」


豪に問う。


「街には電気は通っていなかったが、稼動した」


「そうか、ハードが使えれば何とかなりそうだ。悪い豪、もう一度研究所に行ってメインハードを運んで来て欲しい」


賢は接続部分などを説明し、運び込む部分を指示した。


「よし、それなら俺が車を出そう」


「ありがとう兄さん。僕はデータを参照して準備を進めておくよ。よろしく頼みます」


「分かった。だが賢、無理はするな。お前の体はまだ万全な状態じゃないんだからな」


仁は賢にそう言うと病室を出た。




豪と共に廊下を歩いていると助手の真純が慌ててかけて来た。


「仁先生!!!」


「どうした!?」


真純の様子から急患が出たと悟る。


「邦鷹さんが、突然痛みを訴え暴れだしてしまって・・・」


「それで!?」


「今痛み止めと鎮静剤を投与して落ち着いたんですが、どうしても先生に聞きたい事があると・・・」


仁は真純に状況を聞き、勇也を優先することにした。


「悪い豪、少し時間をくれ」


「あぁ・・」


豪に断りを得て仁は勇也のもとへ駆けつけた。


病室に入ると勇也は落ち着いて横になっていた。


視線はボーっと天井に向けたまま、表情も変えずに時折瞬きだけをしている。


そっとベッドに近づくと勇也は静かに口を開いた。


「先生・・・」


仁は黙って勇也の声に耳を傾けていた。


「俺・・・手術したら、もう・・・無理なんだよな」


勇也は今まで築きあげてきたものを全て失いかけており、奈落の底に落ちてしまったかのように絶望している。


「なるべく最良の方法を検討します。まだ・・・諦めるのは、早いよ」


仁が言葉を選んでいるのが分かり、勇也は唇をかみしめている。


「自分にとって大切なもの、信じてたものを失うかもしれない、気持ちは分かるつもりです」


一見気休めの言葉のようだったが、仁はその言葉に何かを込めている様なそんな表情をしている。


しかし今の勇也にはそこまで悟る余裕はなかった。


弱った自分を隠すかのように顔を更に背けた。


「俺・・・怖いんだ。当たり前だった物がなくなる人生なんて・・・考えられねぇよ」


そう言う勇也の声は震えていた。


自分の未来を揺るがす出来事にかなり怯えている。


仁はそっと勇也の肩に触れた。


勇也は一度鼻をすすり言った。


「クソ・・かっこ悪すぎるや・・・せんせ・・暮内には・・・言わないでくれ・・・」


こんな自分を知られたくないと、勇也は仁に口止めをしていた。


声が弱くなったと思うと、麻酔が効いたせいで勇也は眠りについていた。


仁は掛け布団を正し、静かに病室を後にした。


廊下に出るとふと物思いに耽る。


遠い昔を思い出したような・・・どこか切なげな表情になっていた。


そんな仁を静かに見ている豪の姿があった。


豪に気がつくと仁は気持ちを切り替える。


「待たせたな。行こう」


二人はレッドタウンへと出発した。

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