~30~
麗加は仁が去ったのを確認すると、E-noteを開き日記を書き始めた。
何かを決意したかの様な眼差しでキーを必死に叩いていた。
「邦鷹君を・・・救ってあげられる」
麗加は勇也の為に使える力がある事に気づき、ある決心を固めていた。
仁が言うもしもの時の為に自分の意志を残すため日記に書き込み保存した。
しかし、勇也の目の前で力を使う訳にはいかない。
仁にバレれば何らかの方法で止められてしまう。
離れた場所からでも力を使うことが出来ないだろうか・・・。
麗加は願うように勇也の元へ意識を集中させてみる。
しかし、この力を自分でコントロールしたことが一度もないため上手く出来なかった。
「出来ない・・・どうすれば良いのよ」
麗加は苛立ちを覚えた。
やっぱり無理なんだ。
そう思うと悔しくて涙が出そうになった。
勇也の悔しそうな顔が脳裏に蘇る。
使ってはいけないといわれた自分の力。
でも、何故自分がそんな力を秘めていたのか。
それは自分に必要な力だったから以外に理由はないだろう。
麗加は諦めなかった。
「思い出せ・・・感覚を」
再び集中を始めた。
昼が過ぎた頃、豪は賢の部屋に戻ってきた。
ベッドに設置された机の上にトランクケースを置いた。
「とりあえずノートパソコンとメモリーカードをかき集めてきた。これでいいか?」
賢はケースを開け中を確認した。
「多分この中に手がかりになるデータがいくつかあるはずだ。悪いな・・・随分手こずらせてしまって」
豪がほぼ1日帰ってこなかったことに賢は心配して待っていたのだった。
「これらは直ぐに見つかった。遅くなって悪かったな。別の場所にも立ち寄っていた」
「もしかして・・・レッドタウン?」
豪はあの後、レッドタウンにも足を運んでいた。
イエロータウンよりも酷い被害にあったその街はまるで廃墟だった。
街人の姿もなく、どこまでも広がるのは瓦礫だけだった。
豪は生まれ変わってから初めてこの地を訪れた。
かつて自分が住んでいた跡地に向かう。
両親を亡くしてから兄弟で力をあわせて暮していた温かいあの頃の姿はどこにもなかった。
幼い弟たちの笑顔が蘇ってくる。
そして、一人の女性の優しい笑顔が浮かんだ。
豪の目から静かに涙が流れた。
「まだ、涙は出るんだな・・・」
自分の涙に気がつくとその場に膝をつき、地面を拳で強く殴った。
その瞬間豪の目つきは復習の決意の目に変わったのだった。