~28~
「え・・・今なんて・・・」
診察室では勇也の母親が言葉を失いそうになっていた。
「精密検査の結果、膝半月板損傷との診断結果が出ました。
手術をすれば回復は望めます。
ただ彼の場合、普段行っているサッカーで既に痛めていた可能性が高く、昨日のとっさの衝撃で激しくひねり損傷したものと考えられます。
このままだと日常生活にも車椅子が必須になります。
リハビリを重ねて歩行が可能になったとしても、残念ながら選手生命を絶たれる可能性が高いです。」
「そんな・・・」
母親はショックで涙を流していた。
「すみません。私の責任です。確かに、邦鷹は度々膝を気にしていました・・・まさかこんな事に・・・」
顧問教師は頭を抱え俯いた。
勇也の思いがけない発言に麗加は思わず固まる。
「だっ・・て、結果・・・まだなんでしょ?そんな・・・分からないよ」
「俺さ、ホントは前から膝、痛めてたんだ。
だけど試合が近かったからさ、黙ってて・・・
けどこの怪我でもう、駄目なんじゃないかってさ、分かるんだ。
本人じゃなくて、親が呼び出されてるのだってそう言うことだろ?」
勇也は膝を見ながら悔しそうな顔をし、唇をかみしめていた。
「でもさ、手術すれば・・・今は人工・・・」
そう言いかけて麗加は言葉に詰まった。
以前、授業で自分には必要ないと発言したことを思い出す。
その日の帰りのロッカーで勇也に会い、言われた言葉が頭を過ぎった。
『俺もかっこいいと思うよ・・・英雄みたいじゃん!』
あの時きっと勇也も麗加と同じ考えを抱いたのだろう。
「ごめんなさい・・・」
麗加は軽はずみな言動をしたことを後悔した。
「いや、出来ればさ、続けられるならそれでも良いんだ。
けど・・・俺の怪我、人工器具使ったら多分、もうプロは目指せなくなる」
科学が発達し、機械による補助で怪我や病気を治療できるようにはなった。
しかし、その機能が機械によるものの場合スポーツ界では規定が設けられてしまう。
そうなるとプロ選手の道は花が咲かないまま絶たれる事になる。
勇也は幼い頃からプロを夢見てサッカーを続けてきており、県代表候補とまで言われていた。
築き上げてきたものが壊れかけている。
「なんかごめんな、せっかく久しぶりに会えたのに、俺すっげーカッコ悪いとこばっか見せてるな・・・」
勇也は麗加と目を合わせなかった。
一人になりたいのだと察した。
「私で力になれることがあったら遠慮なく言ってね」
「ごめんな・・・」
力なく勇也が謝った。
麗加は何もしてあげられないもどかしさを噛みしめながら病室を出た。
静かに戸が閉まると、勇也は声を殺して悔し涙を流していた。