~22~
しばらくの沈黙を豪が破った。
「くよくよしていても仕方ない。俺にその力を引き出せればいい話だ」
「それに、奴のその感情の発端を止めれば軽減できるかもしれないしな。
医学的に精神解明をしてみる。
何か参考になるかもしれない。俺にも力になれることはあるはずだ」
続いて仁が発言した。
「あと、兄さんに一番大事なことを頼みたい・・・」
賢がすがる様に言った。
「分かってるさ」
仁は豪を見て言った。
「豪、君の身体メンテナンスは俺が担当する。
何か異変を感じたりしたときはすぐに来て欲しい」
豪も仁の目をしっかりと見た。
「あぁ、よろしく頼む」
「とりあえずやれる事から始めよう」
仁が場を仕切り直すように言った。
「そうだな。俺は奴の情報を集める」
「それなら、まずイエロータウンの僕の地下研究所に行ってくれないか?そこに少しならバックアップデータが残ってるはずだ」
豪に賢は呼びかけた。
「分かった。とり合えずそれらしい物は持ってくる」
豪は病室を後にした。
「そのデータが集まれば何とかなるのか?」
仁が賢に問う。
「僕が預かったのはあくまで、A-D2Xのメンテナンス用のデータだけだ。
構造やシステムのデータは複製防止の為に管理者である父さんの身に何かあれば抹消されることになってる。
正直役に立つものとは思えないけど」
「そうか。全く、恐ろしい奴らだ。お前も父さんも・・・この俺もな」
病室を後にした豪はSky systemを自粛したため、歩いて行動していた。
自分の足では大した距離を移動出来ない事を改めて実感する。
「実に不便な生き物だな・・・」
階段を下りていると豪は聞き覚えのある声に呼び止められた。
「あのっ!」
振り返るとそこにいたのは、少し息の切らした麗加だった。
麗加が丁度病室を出たときに豪の姿を見つけ、急いで追いかけた。
「どうした?」
麗加は少し困ったような顔をしてうつむいた。
「あ、えっと・・・」
いざ豪を前にすると何を話せばいいのか分からなくなる。
まだ自分の気持ちにも整理がつかなく、どうしたらいいのか聞きたかっただけなのだが。
「悪いが急ぐんでな」
豪が去ろうとすると、麗加は心境を口に出した。
「私分からないの。自分がどうしたいのか。だからもう一度あなたに会って話したかったの」
豪は再び立ち止まり、振り返って一言だけ言った。
「お前が今、俺に話しかける行動をした。それがもう答えだ」
「え?」
麗加はその場に留まった。
私が今こうしてる事がもう「答え」?
彼に問うことを求めた。
それは何故?
私はただの人間。
何の力も持たず、何の能力もない。
事故で体に傷を負い、家族を亡くして心に傷を負い、その傷を癒し治すために治療をしているただの人間。
それだけなら、自身を改造したという彼の言葉を鵜呑みにはしていない。
信じられるはずがない。
自分にも何かできるかなんて考えられない。
だけど私は。
「暮内さん?」
立ち尽くしている麗加の姿に気が付き、賢の部屋から出てきた仁に声をかけられ我に返る。
「どうかしたの?具合でも悪くなった?」
「んん。何でもない」
笑って見せる麗加。
しかし次に見せた一瞬の目を見て仁はさっきまで見ていた者と同じものを感じた。