~20~
その頃病院のロビーには豪の姿があった。
賢の気配を探り病室へ向かう。
仁は麗加の診断書を置き頬杖を付いた時看護婦に賢の検査の時間だと呼ばれ、他の医師に詳しく調べるよう指示をし賢の病室へ向かった。
二人は廊下で鉢合わせた。
仁は豪を見ると、見ない顔だな・・・と思いながらも賢の病室に行く為豪に近づいた。
豪も仁を見ると、賢と同じものを感じとっていた。
「どちらの病室をお探しですか?」
仁が豪に声をかける。
豪は表情一つ変えないで仁の目をじっと見ていた。
そして、
「俺は丹波豪。田神賢に会いに来た」
仁はハッとした。
「君が…」
目を丸くして豪の姿を見渡した。
まるで珍しいものでも見るかのようだった。
「俺がそんなに珍しいのか?」
ずばり豪に当てられ仁は我に返った。
「失礼…」
仁は慌てて目を反らした。
話に聞いた時、改造された人間はそれなりにどこか特徴が見られるものだと勝手な想像をした。
しかし目の前にいる豪は全く人間そのものだったのだ。
サイボーグだと言われても冗談にしか聞こえないくらいだ。
「賢の担当医なのか?」
豪は仁にたずねた。
「はい。賢の兄でもあります田神仁です」
それを聞いて豪も少し反応した。
「やっぱりそうか。同じ目をしている」
仁は少し恐怖心を覚えたが、毅然とした対応をした。
「これから賢は定期検査があります。その後の面会でも構いませんか?」
「…分かった」
豪は素直に応じた。
「では10分ほどお待ち下さい」
会釈をして仁は賢の病室に入った。
戸を閉め大きく息を吐いた。
気を取り直し、カーテン越しの賢のベッドに顔を覗かせた。
「賢、調子はどうだ?」
「問題ないよ」
先に来ていた看護婦に採血をされながら賢は答えた。
賢はだいぶ回復に向かっていた。
まだ痛々しい包帯は取れないが、食事などは自分で出来るようになっていた。
検査が終わると仁は看護婦に先に戻るように指示をし、病室に二人になったところで賢に告げた。
「お客さんが来てる」
「客?」
疑問を抱く賢を待たせ、仁は外で待つ豪を呼びに行った。
「お待たせしました。中へどうぞ」
豪は静かに病室へと入り賢の前に姿を見せた。
「豪!」
賢は驚いて身を乗り出した。
「久しぶりだな」
「そうか、プログラムは上手くいったようだな!」
賢は安堵の笑みを浮かべた。
豪は表情一つ変えない。
賢は悟った。
先ほどとは変わって表情を曇らせた。
「…僕を殺しに来たんだね」
その目は覚悟に満ちた目だった。
「なんだって!?」
仁は一瞬焦りを見せたが二人の間に何かを感じその場から動くことはできなかった。
豪は険しい目つきになり賢を睨みつけた。
静かに目を閉じ、表情を戻した。
「お前にはまだ生きてもらう」
豪が賢に放った。
「俺はまだ完璧ではない。お前にサポートしてもらわなければならないことが沢山ある。
それにあいつの手がかりも集める必要があるからな」
賢は静かに微笑んだ。
「そうだね。分かった」
感じたことのない不思議な空気に、仁はただ見ていることしか出来なかった。