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異世界で、二人乗り  作者: そよかぜ
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異世界で、二人乗り 第一部 第21話「静かな戦い」

森林に張りつめていた空気が、ゆっくりとほどけていった。

剣を収める音。

深く息を吐く音。

倒れたスクラッパーの数は多く、処理にはまだ時間がかかる。


脅威は去った。

だが、それで終わりというわけではない。

ここから先も、冒険者にとっては大切な仕事だ。


討伐数の確認。報酬の根拠になる作業。

スクラッパーの場合は両耳。二つで一組になる部位を切り取り、一体と数える。

その場で簡易の刻印を入れ、拾い物が混ざらないようにする。これはリーダーであるダスティの仕事。

冒険者たちは慣れた手つきで淡々と処理を進めていく。


モスラットなどの害獣討伐で、タイラーも経験はある。

でも苦手だ。亡骸とはいえ、体を切り取る。

現代社会で生きてきた感覚は、まだ完全には馴染まない。


ダスティの号令で、各パーティが手分けして動く。


森に夕陽が差し込み始めた頃、全員が戻ってきた。

討伐数は三十七体。かなり大きな集落だったようだ。事前の情報より多い。

巣穴の確認をしたパーティから、幼体もいたと報告が入る。

将来の脅威を断つためには必要なことだ。

それでもタイラーは、どこか割り切れない感覚を抱いたままだった。


――慣れていくしかない。

そう自分に言い聞かせる。


各パーティのリーダーが集まり、討伐数を報告し合う。

最終的な集計はダスティが行う。


日が沈みかけたところで、今夜はここで野営することが決まった。

無理に町へ戻るより、その方が安全だ。

焚き火がいくつか起こされ、それぞれのパーティが距離を保ちながら輪になる。

森での野営は、賑やかなものではない。

ただ火を囲み、簡単な食事を取り、少し言葉を交わすだけだ。


それでも、戦闘の緊張が抜けたせいか、自然と会話は増えていった。



あおいは、少し戸惑っていた。

こうした場に、長く身を置いたことがない。

森でのエルフの野営は、もっと静かで、もっと閉じている。


だが今日は違う。

笑い声がある。

軽口が飛ぶ。

戦いを振り返る声がある。


その中に、自分とタイラーの名前が混じる。


「さっきの補助、助かったわ」

弓を持った女性が声をかけてきた。赤みがかった茶髪をまとめ、快活な目をしている。

「私はリーナ。あんた、あおいだっけ?補助専門?」


「……そういうわけじゃ」

言葉を探していると、隣に腰を下ろす女性がいた。


落ち着いた雰囲気で、治癒術師だと紹介されていた人物だ。

「ノラよ。後ろから見てた」

あおいは思わず背筋を伸ばす。


「無駄がなかったわ。森で生きてきた人の動きね。」


「……役割、だったので」

自分でも、どこかタイラーに似た言い方だと思った。


しばらく、リーナとノラとの会話が続く。


「でさ」

リーナが身を乗り出す。

「あっちの魔術師の男。あんたの相方でしょ?」


言葉に詰まる。

相方――どう答えるのが正しいのかわからない。


そこに、穏やかな声が割って入る。

「はいはい、その辺で」

ダスティの妻、マリンだった。

「初対面で聞きすぎよ。あおいさんが困ってるわ。」


「あ、マリン」

リーナが肩をすくめる。


「……一緒に、行動してる」

あおいはそう答えた。


「ふーん」

リーナは楽しそうだ。


「息、合ってたわよ。長い付き合いじゃないと、ああはならない」


「……長くは、ない」


ノラが静かに言う。

「でも、信頼はある。でしょ?」


胸の奥が、少しざわつく。

信頼。

それは、ずっと一人で生きてきた自分には、遠い言葉だった。


「あの人さ」

リーナが声を落とす。


「前に出ないで、でも後ろにもいない」


「……うん」


「変な位置にいるでしょ」


「……うん」


「でも、ああいう人がいると、すごく戦いやすいのよ。こちらは弓を射るのに集中できるし。」

あおいは答えなかった。

それは、自分も感じていたことだったから。


「良い人よね。」

ノラが続けた。


「もう、答え出てるんじゃないの?」

茶化すようにリーナが続ける。


言葉に詰まる、あおい。


「ほら。」

マリンが柔らかく言う。

「答えを急がせるものじゃないわ。今はそれでいいの。」


あおいは焚き火を見つめたまま、小さく頷いた。



少し離れた焚き火のそばで、タイラーはダスティや各パーティのリーダーと輪を作っていた。

話題は、自然と報酬の分配へ移る。


「前衛が多く倒したのは事実だろ。」

そう口にしたのは、若い重装備の戦士だった。


感情が少し先走っている。

「だから、分配もそこが主になるべきだ。」


「それだけだと、後衛や補助が割を食う。」

別のパーティの者が言う。


「でも、倒してるのは俺たちだ!」

若手は譲らない。


場の空気が、少し割れ始める。


タイラーは、すぐには口を開かなかった。

前に出るでもなく、輪の中に立ったまま。


ダスティが、ちらりとこちらを見る。

「……どう思う?」

指名されたわけじゃない。

ただ、意見があれば聞く、という目だった。


タイラーは、少し考えてから静かに言った。

「オレは……」

言葉を選ぶ。


「今日は、誰が一番だったかを決めに来たわけじゃないと思ってます。」


タイラーが続ける。

「……整理していいですか」

視線が集まる。


「今日の討伐は、集落を潰すのが目的でしたよね。数を競う仕事じゃない。」

否定は出ない。


「倒した数で分けるのは、わかりやすいです。ただ……今日は、倒さなかったことで守れた場面も多かった」


「それだけとは限らないだろ!」

若手が言う。感情的になっている。


「そうかもしれません。」

タイラーは否定しない。


「だから、前衛の評価は下げない。全体の報酬を先に分けて、その上で討伐数の分を足す。ただ、討伐報酬に後衛と補助の分の取り分を作る。」


「一体につき銅貨五枚なら、そのうち一枚だけを後衛や補助の分として回す。」

賛同の声もあれば、首を傾げる者もいる。

後衛や補助に専念した者たちからの賛同者は多い。


場は、完全にはまとまらない。前衛の報酬は満額から1枚減る訳だから、当然と言える。


そこでダスティが口を開いた。

「そういう考え方もある」


一度、間を置く。

「俺は嫌いじゃない」


「スレイはどうだ?」

ダスティが重装備の戦士達のリーダーらしき男を見た。


ダスティと同世代くらい。熟練の戦士といった印象だ。

スレイは腕を組んだまま、焚き火を見つめていた。

やがて短く息を吐く。

「前衛が主なのは変わらん」

それだけ言って、続ける。


「だが……次も同じ面子でやるなら、考える価値はある。」

若手は不満そうだったが、スレイはそれ以上言わない。


複数パーティでの討伐では、後衛や補助はどうしても評価されにくい事がある。

それが続けば、後衛も補助も引き受ける者がいなくなる。

それは、全体の損失だ。


しばしの沈黙。


それを破ったのは、ダスティだった。

「あまり普段はやらない分け方だが……」

短く息を吐く。

「不満は、残りにくいな」


別のリーダーが言う。

「確かに。前衛だけが得をする形より、これなら次も一緒にやりやすい。」


「決めよう」

ダスティが言った。

「全体報酬を先に分ける。そのあと討伐数分を上乗せ。後衛と補助の分は多くなくていい。だが、無かったことにはしない。」

誰も、完全には満足していない。だが、全員が納得できる線だった。


話はそこで収まった。

タイラーは何も言わず、一歩下がる。


少し離れた焚き火のそばで、あおいはその様子を見ていた。

剣を振るわなくても。

声を荒げなくても。

静かに、戦う事ができる。


――この人は、こういう強さなんだ。



タイラーが戻ってくる。

「寒くない?」


「……大丈夫」


少し間があって、

「それなら、よかった」


あおいには、タイラーが複雑な表情をしているように見えた。



------▫️風の兆し▫️------

人とは距離を取る。森の生き方だ。


期待しない。

頼らない。


でも――

タイラーといると、その距離が自然に縮む。


背中を押す風は、

すべてタイラーに向かって吹いている。

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