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異世界で、二人乗り  作者: そよかぜ
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異世界で、二人乗り 第一部 第12話「二人乗り」

歩くつもりだった。

それが最初の判断だ。森を抜け、あおいの知っている町へ向かう。徒歩なら確実だし、燃料の心配もいらない。


「町まで、どれくらい?」


タイラー(上杉)がそう聞くと、あおいは少し考えてから、さも当然のように言った。

「私の足なら、三日くらい」


――三日。

タイラー(上杉)は一瞬、言葉を失った。

 

「……それ、結構な距離じゃない?」


「そう?」


首をかしげるあおいは、本気でそう思っていないらしい。この世界の基準では、三日は「近い」の範疇なのだろう。


いやいやいや。三日って、大旅行だろ。


タイラー(上杉)は内心でそう突っ込みながら、ジュリオに目を向けた。

移動手段はある。あるにはあるが、問題も多い。

ガソリンは、あと一メモリ。

それに――

「……これ、二人乗りできないんだよね、本来」

原付だ。法律的にアウトだし、そもそもシートが一人分しかない。

ヘルメットもない。

「ヘルメット……そういえば、俺どこやったっけ」

思い出そうとして、思い出せない。最後に被っていた記憶が、ここに来る前なのか後なのかすら曖昧だ。


その時だった。


ジュリオの荷台が、音もなく形を変えた。

金属が溶けるわけでも、軋む音がするわけでもない。ただ、「そうなるのが自然だった」みたいに、滑らかに。

あおいが座れそうな、シート形状。その横には、足を置けるグリップまで生えている。

タイラーはそれを見て、ため息をついた。


「……もう、なんでもありだよな」

驚きはない。否定もしない。


こうなった以上、使わない理由はなかった。


「乗って。こうやって座って」

タイラーはあおいに手振りで説明し、シートに座らせる。足はここ、とグリップにかけさせる。


その瞬間、視界に入ったのは――

綺麗な足。透き通るような肌。

思わず、見てしまった。


――あ。

だめだ。セクハラ案件。タイラーは即座に視線を前に戻し、平常心を装った。会社だったらアウト。ここがどこであれ、基準は変えない。


「……ちゃんと、つかまっててね。軽くでいいから」

あおいは、こくりと頷き、タイラー(上杉)の腰にそっと手を添えた。軽く。必要最低限。

それで十分だと、タイラー(上杉)は思った。


走り出して少し、

次に気になるのは、燃料だった。


「こうなったらさ……ガソリンも満タン分くらい、出てこないかな」

半分冗談。半分本気。


そう思った瞬間、視界の端に何かが入った。

木陰。不自然に置かれた、ポリタンク。

「……まさか」

近づいて、蓋を開ける。

――ガソリン。


タイラー(上杉)は、もう笑う気にもならなかった。

「はいはい……」

そう呟いて、淡々と給油する。感情は追いつかない。驚く段階は、もう過ぎている。


あおいは、その様子を黙って見ていた。問いもしない。驚きもしない。

ただ、見ている。

給油を終え、タンクを閉める。タイラーはエンジンをかけた。

ポコポコ、という独特の音。

空のポリタンクは、役目を終え消えていた。なんてご都合主義。



ジュリオのシートに座る。ふたたびあおいが腰のあたりに掴まる。やさしい手。

原付。

ノーヘル。二人乗り。

現代社会なら、完全にアウトだ。

環七でこれをやったら、三十秒で白バイに止められる。

そんな映像が、ふと頭をよぎる。

でも、ここには信号も、標識も、警察もいない。あるのは、道と、森と、乗せている命。

「……じゃ、行くよ」

時速は三十キロ程度。それ以上は出せない。舗装されていない道を、慎重に進む。

女の子を乗せている。転べば終わりだ。

責任は、全部自分。交通ルールも自分自身。安全に確実に目的地まで走らせる事。

それを強く意識しながら、タイラー(上杉)はジュリオを走らせた。



------▫️風の兆し▫️------

背中が、近い。


魔術師様が従えているという魔導機械。はじめて見た。私はそこに座り、男――タイラーの背中を見ていた。


手は、腰に回している。必要だから。落ちないために。

そう、自分に言い聞かせている。

でも。

心臓の音が、うるさい。

近すぎるからだと思う。それだけの理由だと、思いたい。

でも、触れている場所から伝わってくる熱が、心地いい。暖かい。落ち着く。


おかしい。

私は一人で生きてきた。それは選んだ生き方だ。誰かに寄りかからなくても、やってこれた。

なのに。

この男の背中に手を回していると、不安が、どこかへ行ってしまう。

道は揺れる。魔導機械が進むたび、身体が少し揺れる。

そのたびに、自然と手に力が入る。

ドキドキする。でも、怖くはない。

むしろ――安心している。

理由は、わからない。わからないけれど、確かだ。

この人と一緒にいた方がいい。

そう、奥の方で、何かが静かに告げている。

私は、タイラーの背中から目を離さず、その感覚を否定しないことにした。

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