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異世界で、二人乗り  作者: そよかぜ
10/28

異世界で、二人乗り 第一部 第10話「来た」

歩き出して、しばらくした頃。


気配が変わった。

風が止まり、森が息を潜める。このパターン。

前方から現れたのは、狼のような、でかいモンスターだった。


一体。前に戦ったものと同じ種類。

上杉は、もう逃げなかった。


距離を測る。間合いを取る。

踏み込んでくる。半歩下がり、突きを入れる。

浅いが、怯む。

脚を使う。フェイント。重心がずれた瞬間、間合いを詰める。


二度目の戦闘は、短かった。

モンスターの首を落とし、上杉は息を吐く。慣れたくない。だが、身体は応えてしまう。


ジュリオのエンジンをかけて、その場から足早に移動することにした。

もしここがモンスターの活動圏であったなら、また遭遇する可能性は高い。

ガソリンは気になるが、これは緊急措置だ。

考えうるリスクはあらかじめ回避する。当然のことだ。


--------------


しばらくジュリオを走らせると、周囲の気配が変わる。

風が出て来た。木々が揺れ、葉が音をたてはじめた。

ほのかに、あの、この世界に降り立った時に匂ってきた香りがした。そんな気がする。


小川沿いを進んでいると――

前方に、戦闘の気配が見えた。

人影。そして、狼のような、でかいモンスター。またヤツか。

上杉は足を止めた。


------▫️風の兆し▫️------

「――油断した」


少女は歯を食いしばった。言葉にした瞬間、判断が確定してしまうのがわかっていた。それでも、そう呼ぶしかなかった。


森を進む中で、ずっと妙な気配を感じていた。音ではない。匂いでもない。空気の流れが、ほんのわずかに乱れている。それだけだ。

理由はわからない。だが、無視できなかった。


風が、森の奥から手前へと戻ってくるような感覚があった。普段なら、風は流れる。止まることはあっても、戻ることはない。戻る風は、何かに当たって跳ね返った証だ。


――何かがいる。


そう思った時点で、もう一歩、慎重になるべきだった。それなのに、彼女は進んだ。

出てきたのは、グリムウルフ。一体だけ。そう見えた。


「……大丈夫」


自分に言い聞かせるように、呼吸を整えた。一体なら対処できる。風も、まだ乱れていない。判断としては、間違っていない――はずだった。


背後で、空気が裂けた。

理解するより先に、衝撃が来る。爪が肩を裂き、身体が宙に浮いた。地面に叩きつけられ、視界が回る。


「……っ!」


肺の空気が一気に抜け、息が詰まる。土の匂いが鼻に入り、葉擦れの音が遠くなる。


――二体。

遅れて、結論だけが追いついた。

風を、読み違えた。いや、読めていた。信じきれなかった。

起き上がろうとして、力が入らない。身体が言う。今は、動くな。


その時だった。


ポコ……ポコ……。


聞いたことのない音。足音ではない。獣のものでも、人のものでもない。

音より先に、風が来た。

暖かい。森の中では、あり得ない温度。夜露を含んだ冷えではなく、誰かの体温に近い、やわらかさ。

頬を撫でるその風に、彼女は目を見開いた。


グリムウルフ二体が、同時にそちらを見る。唸りが止まり、耳が立つ。獣が警戒する方向――そこに、何かがいる。

見えたのは、人影だった。

魔導機械を従えた、魔術師のような男。

金属の塊が、低い音を立てながら地面を進んでいる。火でも雷でもない。それなのに、異様な存在感。


――遠い。

そう感じた。

距離としては、そう離れていないはずなのに。風を介して伝わってくる気配が、遠い。この森のものではない。森に、馴染みきっていない。


けれど。

風は、確かに彼に向かっていた。そして、その風は――彼女自身の立っている場所へと、繋がっていた。


その瞬間、彼女はわかった。

これは偶然ではない。呼んだ覚えはない。

だが、拒んだ覚えもない。

風は、条件が揃った場所にしか吹かない。

今、この場所に、それが揃った。


――来た。


彼が、この世界に落ちた瞬間と、同じ風だった。


そこには、ジュリオに乗った上杉がいた。

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