篠宮の作戦
状況ははっきり言って最悪だ。
目の前には傷1つないSランクモンスターのヴァンパイアが。
そして俺はかなりボロボロだ。
「ヒール」
この前習得していたヒールである程度の傷を回復させた。
だが、俺の魔力量的に全回復とまではいかない。
俺は篠宮に顔を少し近づけて小声で話す。
「篠宮。お前の言っていた作戦ってのはなんだ?」
「要はあいつを追い返せばいいんでしょ?だったらここにいる全員で辺り一帯を吹き飛ばすくらいの魔法をぶつければさすがに無事じゃいられなくなって引くんじゃない?なんなら倒せるかも!って作戦なんだけど、どう?」
なるほど、確かにそれならいけるかもしれない。
だがそれをどうやって他のハンター達に伝えるかだ。
きっと今後ろに下がれば追撃が来る。それは篠宮も同じだろう。
だがその時、
「なんか知らねぇが俺等の番がやってきたか!」
数人のハンターが後ろから出てきた。
そいつらには見覚えがあった。さっき作戦会議をしたこの街の中でもかなり上位のハンター達だ。
「あいつを追い返せばいいんだよな?」
「ああ、俺は後ろの奴らに作戦を伝える。その時間を稼いでくれればいい」
「まかせとけ!」
頼りなるやつらだ。だが、あいつらとて、カブラには勝てないだろう。
俺はなるべく手短に後ろのハンターたちに作戦を伝えた。
全員がその作戦を理解し、魔法の詠唱を始める。
だが、前線に戻ろうとした俺の目に映ったのは傷だらけのさっきのハンター達だった。
「おい、こいつ……つ、強えぞ」
まずいなそろそろ交代か。
さっきの作戦は誰かがカブラの動きを止めなくてはならない。
俺がやるのが一番いいのだろうが、あいにく俺は近接担当だ。魔法に巻き込まれて死ぬのがオチだろう。
ひとまず魔法の詠唱の時間を稼がないとな。
「篠宮。お前も準備しろ」
「はぁ〜い」
こいつは、いっつも、いっつもだらしないな。だが、なぜか返事が変なだけでやる気はあるのだ。
不思議なやつだな。
再度、俺がナイフを持って突っ込む。
『またお前か』
カブラが構える。そしてまた斬り合いになる。
やつの爪と俺のナイフがぶつかり合う。
さっきよりは目が慣れてきた。それ故、被弾は少なくなっている。だが、それでも速い。強すぎる。だが、俺は気合と根性で耐える。
その時。
「キョウく〜ん!準備OKだよ!」
篠宮が大きい声で叫ぶ。
『何か作戦があるのか、どんとこい!』
こいつもこいつでアホだ。敵の作戦に自らハマりに行くとは。こっちとしては好都合だが。
俺はハンターたちが自らの魔法で吹き飛ばないように、カブラと斬り合いながらどんどん詰める。
すると、多少被弾は増えるがヴァンパイアが押されていく。
あいつらから結構離れた場所で俺は突如踵を返して走り出す。
「打て!」
俺があいつらに届くように全力で声を出す。
だが。
『どこへ行くのだ?』
後ろからカブラが追いかけてくる。これじゃ意味がない。
と思った瞬間。
「喰らえ!メテオライト!!」
ヴァンパイアに向かってでっかい隕石が飛んでいく。
『ぐお!』
それが見事ヴァンパイアに的中。
隕石が飛んでくる方向を見ると、メラとキララが立っていた。
キララが、メラに肩を貸している。
きっと今の一撃に魔力を全てを、注ぎ込んだのだろう。
そして今度こそ。
「打て!」
俺は腹から叫ぶ。
次の瞬間とてつもない大きさの魔法がカブラ目がけて飛んでいく。
様々な魔法が混ざり、虹色に輝いている。
それが見事カブラに直撃した。
『ぐあぁぁぁぁ!』
これは流石に効いたのだろう。悲鳴を上げている。
「くっ!」
あまりの威力にそれほど距離を取っていなかった俺も、爆風で吹き飛ぶ。
それでも作戦は成功した。よし、こんな時ぐらい帰って打ち上げでも……。
いやいや、これはフラグってやつだ。やめとこう。
すると奥の煙の中から怒りに満ちた声が聞こえてくる。
『これが、貴様らの作戦か……』
……俺のせいじゃない。そうだ、次の一手を考えなければ。
だが、
『ふ、ふん!なかなかやるではないか。今日は、その、生かしておいてやる。次に会う時が貴様らの命日だ!』
きっと回復魔法でも回復できないほどの重症なのだろう。
するとカブラが飛び立とうとする。俺とやつの距離はかなり広い。仕留められないな。
俺はカブラにとどめを刺すのは諦めて、ハンターたちの方へと踵を返した。
ハンターたちのもとに戻ると、皆が歓声を上げた。
「お前は俺たちのヒーローだ!!」
「かっこいい〜!!」
「キャ〜!今キョウ様がこっち向いた〜!!」
ヒーローなんてものにはなりたくなかったのだが、仕方ないか。
俺はうるさい連中には構わずに、篠宮に向かって〝こいこい〟とジェスチャーした。するとしっかりついてきた。
俺が向かったのはメラとキララのもとだ。
「大丈夫か?」
「もっちろん!全然、だい、じょう、ぶ」
「大丈夫じゃなさそうだな。篠宮、回復させてやれ」
だが篠宮が首を横に振る。
「いやいやキョウくん、メラは魔力がなくて力尽きてるんだよ〜。回復魔法とは治療みたいなものなんだよ。魔力は治療できないから回復を待つしかない。まぁでも使えるモンスターならいるけどね」
「そうか。じゃあしょうがないか」
メラも心配っちゃ心配だが、一番心配なのはキララだ。
「キララ、調子はどうだ?」
「ふっ!我をなめるなよ!全然、全くもってなんともないぞ!
「翻訳すると、四天王が怖いから早くそのXランクのハンターの人を連れてきてって言ってる」
メラがすごく分かりやすい解説をしてくれた。
なるほどな、と頷いている俺と篠宮の横でキララは顔を赤くしてしゃがんでいた。
とはいえ俺たちはSランクモンスターのヴァンパイアを追い返した。
これは魔王討伐への第一歩だ。
この先もっともっと強い敵がたくさん出てくるだろう。
いつか1人でSランクモンスター、いや、四天王くらい倒せるようになりたいものだ。
そして俺は日本に帰るんだ。そんな夢を抱えて街へと戻った──。




