プロローグ
※残酷な描写あり
「──さあ、目を覚ましてください勇者様! 世界を救う番ですよ!」
その言葉と、頭にゲシゲシと走る衝撃に、はっと飛び起きた。
なんだ、と周囲を見渡す。
と同時に、首筋に冷たい何かが当たる。
動きを止める。
「すぐに周囲を警戒する、流石はプロですね!」背後から声がする。「──殺し屋さん?」
女の声。同業者か? 瞬時に巡り出すその思考を、
「私は殺し屋ではありません」
その声が打ち消し、途端に冷静になる。
はっと、目を見張った。──ここはどこだ?
「ここはどこ……いい質問ですねぇ」
まるで俺の思考を読んだかのように、女が言う。
「ここは罪人に裁きを与える場所……そうですねぇ、あなたの世界で言う裁判所、といったところでしょうか」
目の前にあるのは、まるで映画のセットのような神殿、何だここは? 寝込みに連れてこられたのだろうか。
「ここは映画でもセットでもありません」声が言う。
「──異世界です」
俺はゆっくりと口を開く。
「……何が目的だ?」
「おや、心の声が聞こえますよ〜。信じていませんね」
俺はもう一度、ゆっくりと口を開く。
「何が目的だ?」
「ふふ、あなたのような頭の固まった猿には、見せたほうが早いようです」
声が言う。
「──私についてきてください」
女が神殿へと歩き出す。……武器がない。きっとさっき首筋に当たったのは俺のナイフだろう。
仕方なく俺もついていく。
神殿の中に入ると、そこには大きな鏡があった。
鏡を見る。そこに写し出されていたのは、血まみれで倒れ込む人間だった。それは紛れもなく俺自身だった。見ると、片目を切断され、腹に深い刀傷、腕はほぼ断たれていた。
女が言う。
「これは元の世界のあなたです。あなたは敵と戦闘中、味方の裏切りによって死亡しました」
「皮肉ですね。仲間に裏切られて死ぬなんて。まぁ、私にとってはどうでもいいですが!」
明るい笑顔で言う女に少しムカついた。だが、我慢する。今元の世界に帰るにはこいつの力が必要不可欠だ。
「いやいや、あなたはもう元の世界には帰れませんよ」
完全に思考を読まれている。
「本当に、帰れないのか?」
「ようやく信じてきましたね」
死んだ俺を見せられたら、そりゃ信じてしまうだろう……。
それは俺、─宮崎境が本当に敵と対峙して、仲間に裏切られて死んだという記憶が曖昧だが、確かにあるからだ。
「そんなあなたに朗報です!」
絶望している俺に、相変わらず明るい口調で女が語りかけてくる。
「私、実はある世界を管理する女神様なんですよー。そしてその世界が今かなりピンチなんです。けれども、私自身が直接世界に関与する事はできません。なので、私に代わって世界を救ってきてください!そしたら、なんと!報酬として日本に帰らせてあげますよ」
まじか。確かに日本には帰りたい。だが、そのために俺が一つの世界を救わないといけなくなるとは。
「大丈夫、殺し屋のあなたならば魔王を倒せると思いますよ!」
あまりにも無責任すぎる。だが魔王を討伐する以外に日本に帰る方法は無さそうだ。
「なぜ俺なんだ?他に候補はいないのか?」
「いやー、今までは死んだ人から適当に選んでいましたが、どうしても序盤に死んでしまうんですよ」
こいつ。自分の世界さえ救えたら、他の世界の人間なんてどうでもいいってか。まぁ、殺し屋の俺が言えないことだが。
「さぁ、納得していただいたのなら、そろそろ異世界へ……」
「……はぁ、分かった。魔王を討伐してくる。そしたら約束通り元の世界に返してくれるんだな?」
「えぇ、必ず!」
最後まで明るいやつだ。
「では、頑張ってくださいねー!」
女が俺の足元に魔法陣が生成する。そして、魔法陣が強い光を放つ。
その光に俺は包まれた──。
初めまして!東雲慎です!初めて小説を投稿してみました!と言ってもまだまだ書き始めて間もない初心者ですが…。それでも、面白い作品を投稿していきたいと思っておりますので、どうか何卒、よろしくお願いします!