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おしどり。  作者: kui
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2.『キミの呼び方』

「ねぇ君」

「…………」

「ユー」

「…………」

「ニー」

「…………」

「あっ、『ニー』は膝じゃなくて中国語で『あなた』ってい意味だよ~」

「さっきからひょっとしてとは思ってたが、俺のことを呼んでたのか?」

「うん」


 こんな感じで今日もまた、いつもの1日が始まるのだった。




               『キミの呼び方』



「ところでさっきのは何だ? 変なモノでも食ったのか?」

「違うよ~。うなぎとバニラアイスしか食べてないよ~」

「結局食ったのか!?」

 なんと恐るべき俺の彼女。

 無事かどうかはどうでもいいが、どういう味がしたのかは俺としても興味津々だ。

「それでどういう味がしたんだ?」

 恐る恐る訊くと、ハルはニッコリと笑いながらこう言った。

「うなぎとアイスの味だよ~」

「……そりゃそうだ」

 予想通りというかなんというか……。

「晩御飯がうな重で、デザートがアイスだなんて夢のようだったよ~」

「一緒に食ってないのかよ!?」

 これは予想すらしてなかった。なんと恐るべき俺の彼女。

「へ? そんな事したらもったいないよ~。絶対マズイよ~」

 ……もういいや。

「そ、それよりさっきから何を変な呼び方で呼んでるんだ?」

「なんかね~。おもしろい呼び方はないかな~って思ってね~。それで色々と実験してみようと思ったんだよ~」

 ちっとも納得出来ないが、ここは大人しく乗っておこう。

「そうなのか。それで何かおもしろいのは見つかったのか?」

「気になる? 気になるんだ~。気になっちゃうんだ~」

 またもや勝ち誇ったような嘲笑を浮かべるハル。まあ、慣れればこの顔もカワイイものだ。

 俺はちっとも慣れないけど。

「まず1つめ~」

 そんな俺の思いなんか気にもせず、ハルは話を続けるようだ。

「主様」

「……悪い気はしないな」

「貴様」

「悪い気しかしないな」

「愚民」

「殺気が湧いてきたな」

「下郎」

「なるほど。あれか。喧嘩売ってるのか」

「お前」

「彼氏に向かってお前って言うな。つーか、もっとマシなやつはないのか?」

「も~う、注文が多いな~」

 そう言いながらハルはぶすっと口を尖らせ、不機嫌な表情をした。

「じゃ~、ど~ゆ~のがいいの~?」

 ……そう聞かれると何て答えればいいのか困るな。だけど根本的な問題はこれだろう。

「もっと男心をくすぐるものを」

「だ、ダメだよ~。わたしボケしか出来ないよ~」

「今のはつっこんでほしかったわけじゃないぞ!?」

「……キモイよ~」

「キモ――くない……よ……」

 やっぱりキモイか。キモイよな。だからハル。そんな憐れむような目で俺を見ないでくれ!

「じゃあその注文通りやってみるよ~」

 同情か? 哀れみか!?

「ご主人様~」

「俺にそんな趣味はない」

 だけど、ちょっと嬉しかったのは誰にも言わない。墓まで持っていく。

「シャチョーさん」

「その趣味もない」

 これは本当。

「ダ~リン」

「……ハニー」

「キモ――」

「わ、分かった。俺が悪かった。だから続きを」

「じゃあ……」

 ハルは、少しの間何かを考えこむとひらめいたように目を輝かせ、こう言った。


「あなた」


 それが『you』の意味なのか、結婚した相手を指す言葉なのか、どちらなのかは分からないが、俺は後者の意味として受け取ってしまった。

 そして激しく萌えた。

 その言葉を心の中で反芻しながら、俺は素直な気持ちをこめてこう言った。


「おまえ」


「彼女にお前って言うな!」

「ち、違う! 今のは『お前』って意味じゃなくて、いやおまえなんだけど――」

「おい、お前ら」

「「お前って言うな!」」

「いい度胸だ」


 親しくない間柄ならお前なんて言葉は容易に使っちゃダメだと俺は思う。それは本当だ。

 ただ1つ、誤算があったとするなら――。


「廊下に立ってろ」


 今が授業中で、相手が教師だったということだろう。


「あ~あ、廊下に立たされるなんて、3日ぶりだよ~」

「結構な頻度だな」

「それより新田く~ん」

「何だ? まだ続けるのか?」

「新田真」

「フルネームはやめてくれ」

「じゃあ」

 ハルは一呼吸おいて、微笑みながらこう言った。


「まこと。……うん。これが一番落ち着く」

  


ヒロインの名前を小野寺陽から春乃陽に変えました。

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