第九話:そのピエロと会った日
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
自殺請負人――聞いたことはあった。詳しいことは知らない。トイレの花子さんや口裂け女のような、都市伝説の怪異の類だ。
ぽつぽつと散りばめられた黒い水玉模様の大きな衣装は、どこか古ぼけていて、時代の流れを感じさせる。頭には赤と黒の二色に分かれ、同じ水玉模様が描かれた三角帽子がちょこんと乗っていた。
その顔は、白塗りの仮面のようで、中央に赤い丸い鼻がぽつんとある。目は驚きと戸惑いを同時に湛えているようだが、口元は見えない。灰色のマスクが半分を覆い、何か言えない秘密を抱えているかのようにぴったりと隠していた。
どこか滑稽で、しかし哀愁が漂うその姿は、誰の目にも忘れられない印象を刻みつけるだろう。
マスクの下に隠された本当の表情は、誰にもわからない。
「嘘……信じられない」
「でしょうね。じゃあ、これを聞いてください」
それは先日自殺した俳優小波との会話だった。
「また、一度契約したらキャンセルできません。しかし、一度断れば二度とあなたの前にも表れることはないでしょう。こちらも面倒ごとには極力関わりたくない。さあどうします?」
「勿論、契約する。俺はもうずっと限界だった。でも生きたいわけじゃないんだ。死ねかっただけだから。テレビや新聞などで自殺した人がいると悲しみよりもその勇気に凄さを感じた。俺のことを羨ましいと思っている人がいることも分かっている。でも、自分の限界は自分にしか分からない。」
「では、貴方にはエンディングノートの作成とどのような死因が良いか。また、願いを一つ決めておいてください。三日後に同じ場所で金14万円を用意してください。」
「うそ……この声、あの事件にも関わっていたのですか?」
「他にもありますが、例えば……」
「ちょっと待って、もういい。分かりました。信じます」
しかし、アーロンは気づいていた。私はまだ完全には信頼していない。だから問いかける。
「単刀直入に聞きます。あなたは死にたいのですか?」
「死にたいんじゃない、消えたいんです」
「聞き方を変えましょう。契約しますか? 一度契約したらキャンセルできません。断れば二度と現れません。さあ、どうします?」
「はい、契約します……と言いたいところですが、まだ言えません」
「実は一件だけ、二日後に学校から推薦先の会社の面接があります。そこだけ受けさせてもらえませんか? 学校のメンツを潰したくないんです」
「漏れた場合は、内と契約する、と」
「いえ、違います。合格しても死ぬつもりです。会社や学校には申し訳ないですが、最後に自信をつけたいだけなんです」
「わかりました。ですが、再度いいます。キャンセルはできません。本当にそれでよろしいのですね」
「はい、二言はありません」
「では、エンディングノートを作り、希望する死因と願いを一つ決めてください。次回は一週間後で良いですか?」
「一週間もいりません。四日後で十分です。受かる気しかしないので」
その笑みを見たアーロンは、わずかに顔を背けこう言った。
「ほう……分かりました」
読んでくださり、ありがとうございます。
重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。
彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
次回更新日:2025年8月24日(日) 16時(社会情勢によって変動。)
次回予告:陽気な彼女