第八話;:橙林町の深夜
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
あの日から毎日頭の中で「消えてなくなりたい」と思う。ある日、Yで #自〇 と検索をしたときだった。すると、一件の変な投稿が目に入った。
スクロールすると、一件の異様な投稿が目に入った。
最初は「mamazon」のURL、よくあるアフィリエイトの類かと思った。しかし、クリックすると画面が暗転し、パスコードを求められた。
翌日、見知らぬアドレスから謎のメッセージが届いた。
そこにはただ、数字だけが並んでいた。
209607341089
意味は分からなかった。だが、胸の奥がざわつく。何か、得体の知れないものに見つめられているような感覚だった。
もう一度、あのページにパスワードを入力すると、画面が変わり、特殊なサイトに飛んだ。
文字は淡く光り、背景には薄暗い霧が漂っている。そこに、赤い文字でこう書かれていた。
「貴方が自殺したいなら、こちらまで橙林町3-1-27林団地の裏側、焼きそば屋の裏の路地裏にて、二日後に待つ。時間は深夜2時」
私は学校のプロの心理カウンセラーに治療を受けながら再就職活動をしていた。
「まだ若いんだから」とカウンセラーに言われても、その言葉すら重く、鉛のように胸にのしかかる。
もし可能なら、このまま消えてしまいたい――。
誰にも、何にも、邪魔されず、静かに。
日本では一般的に安楽死は認められていない。だから、必死に自分が消える方法を探したが、見つけられなかった。
あの特殊サイトに対して恐怖心はなかった。怖いよりも、死にたい気持ちが勝っていた。だから、たとえ何か変な事件に巻き込まれても、それはそれで構わないと思った。心に決めた。絶対に行こう。
指定された住所に到着すると、辺りは深い闇に包まれ、街灯の光すら届かない。
建物の影が妙に長く伸び、風の音が耳をざわつかせる。歩くたびに、足元の落ち葉が乾いた音を立て、異様に響く。
「貴方ですね。死を求めている人は?」
どこからか声がした。低く、しかし確かにこちらに届く声。鳥肌が立つ。
「そう……暗くてよく見えないけど。あなたは……何者?どこにいるの?」
「私は、自殺請負人。人間に死を提供できる唯一の存在です。詳しい話は後で。貴方、明日一日、時間はありますか?」
「ありません……けど、作ります。体調不良という理由で」
「では、作ってください。そうすれば、貴方は楽になれます。あなたの経歴はすでに調べてあります」
「分かりました……一つだけ教えてください。どうやって私の経歴を?たった数日で」
「知らないほうが良いです。ただ、まじめな貴方に一つ言うなら、あのプレゼン資料は非常に分かりやすかった。今でもHard Bankには資料作りの基本として保管されています。もちろん名前は伏せてありますけどね。偶然、あなたを調べているうちに見つけたんです」
その言葉を聞くと、背筋が凍る。私の小さな努力が、知らぬ間に誰かに監視され、評価されていたのか。
鳥肌と同時に、奇妙な安心感が胸を過る。怖い。だが、この存在に身を委ねてみるしかない、とも思った。
「では、場所を変えましょう」
その瞬間、意識が霧のように薄れ、深い闇に飲み込まれていった。
どのくらい時間が経ったのだろう。
「目覚めましたか?」
「ここは……あなたは、何?」
「ご安心を。ここは、私が以前関わった志願者の家の地下です」
薄暗く、湿った空気。壁にはわずかに古い金属の匂いが漂う。自分の心臓の鼓動だけがやけに大きく聞こえる。
「改めまして、私は自殺請負人。名はアーロンと言います。私は貴方の死の手助けをする。それだけです」
その声は冷静だが、どこか異様に落ち着いている。
「確実に逝ける環境を整えるのが私の仕事です。また、ささやかながら、自殺の門出を祝って、死ぬ前にたった一つだけ、あなたの願いを叶えましょう。もちろん、お代はいただきますが、契約しますか?」
読んでくださり、ありがとうございます。
重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。
彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
次回更新日:2025年8月24日(日) 12時(社会情勢によって変動。)
次回予告:信じられない彼女を信じさせた方法とは