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自殺請負人ー依頼は、命の終わらせ方ー  作者: マイライト
黄昏の老賢者

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第七十七話: 十八時十四分の先に

【注意事項】

本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。

読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。

心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。


※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。

それから、私は紗世と穏やかに時間を重ねた。

当時はまだ携帯電話もなく、連絡ひとつ取るのにも手間がかかったが、不便だった分、一つ一つの会話は確かで、重みがあった。待ち合わせの約束も、手紙の一行も、すべてが今よりずっと大切だった。


やがて紗世の苗字が変わり、家族になった。

子どもが生まれ、名前を「みどり」と「あお」と決めた日のことは、今でも覚えている。

陽だまりの中で何度も書いては消し、笑い合った。


それから先のことは、少しずつ曖昧になっていく。

日常は続いていたはずなのに、記憶は滑り落ちていくように抜け落ち、順序を結ばない。

笑い声や夕飯の匂い、冬の冷たい空気だけが、断片として残っている。


何度目かの年始だった。


数か月前、その日。みどり、あお、そしてそれぞれの子どもたちが、私たちの家へ挨拶に来る予定だった。

紗世は家で留守番をしていた。そして私はそのための買い出しをしていた。


時計を見た時間だけは、なぜかはっきり覚えている。

十八時十四分。


そのあと、何があったのかを、私は知らない。

ただ、家に戻ったとき、すべてが終わっていた。


家の中は、静まり返っていた。

呼びかけても返事はなく、テレビも消えたまま、時間だけが止まっている。

外では、どこかの車のエンジン音が、夜の中で無関心に響いていた。


請負人:「久保田さんは……その時間、ご不在でした。」


請負人の声は淡々としていた。


請負人:「空き巣犯は複数人。年始の留守を狙い、三浦さん家の襲った時同様の手口で住宅へ侵入したと見られています。」

請負人:「当時、家にいたのは——紗世さん、みどりさん、あおさん、そしてそのお子さんのシオンさん、茜さんたちです。」


あかし:「……」


請負人:「はい。」


短く、断定的な返事だった。


請負人:「犯行時、現場の一部を偶然録画していたスマートフォンが見つかりました。」

請負人:「映像には、顔を隠した複数の人物が、手慣れた動きで家の中を物色する様子が映っています。」

映像は、縦向きだった。


請負人は、わずかに視線を伏せた。


請負人:「途中、住人に気づかれた形跡があります。」


画面は揺れ、何が映っているのか、最初は分からない。


暗い。

室内灯は消えていて、どこかの部屋の隅、床に近い位置からの映像らしかった。

遠くで、食器が触れ合うような微かな音がする。


次の瞬間、押し殺した息遣いがマイクに拾われた。


「……ッンン……ン!」

嗚咽を堪えきれない声。

紗世「あお!」

それが、紗世の声だと分かるまでに、少し時間がかかった。

茜:「おばあちゃん、

紗世:「2階から逃げて急いで」

紗世:「ッ!!!」


シオン:「でも、おばあちゃん」

みどり:「キャー!」


画面がわずかに傾く。


 震える声で、何度も言葉が途切れる。


 向こう側で、床が軋む音。

 誰かが、ゆっくりと歩いている。


 息を吸い込もうとして、うまくできない。

 「もう……もうそこまで来てるんです……」


 囁き声に近い。

 それでも必死だった。


 カメラが震え、指先が画面の端に映り込む。

 爪が白くなるほど、スマートフォンを握り締めているのが分かる。


 「お願い……早く……」


 その瞬間。


 背後で、はっきりとした足音。

 すぐ近く。


 画面が大きく揺れ、何かが倒れる音がした。


 「――っ!」


 短い悲鳴。


 映像は天井を向き、ぼやけた光だけを映したまま停止する。

 音だけが、数秒、残った。


 荒い呼吸。

 誰かの声。

 そして――


 ぷつり、と通信が途切れた。

請負人:「その後の状況は……映像が途切れており、詳細は不明です。」


しばらくの沈黙。


請負人:「結果として、家の中にいた全員が、帰らぬ人となりました。」


私は、その話を聞いた。

――はずだ。


けれど、それが現実だったかどうか、今では確信が持てない。

自分がどうやって帰宅し、何を見て、誰と話したのか。

思い出そうとすると、霧がかかったように遠ざかる。


ただ一つ、確かに言えることがある。


十八時十四分。

私が家を空けていた、その時間の先に、

私の人生は、静かに断ち切られてしまったということだけだ。



いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。


重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。


彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。


一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。


次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。


次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

次回更新日:【お知らせ】12月14日の更新について

いつも作品を読んでいただき、ありがとうございます。

最近の情勢を踏まえ、読者の皆さまの心情に配慮し、

今週の更新を お休み させていただくことにしました。

楽しみにしてくださっている方には大変申し訳ありません。

作品自体は継続して執筆しており、次週以降の更新に向けて準備を進めています。

再開予定:12月21日(予定)8話更新。

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