第六十五話:図書室で君を知った日
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
図書委員として過ごす日々は、思った以上に充実していた。初めの頃は、ぎこちない会話が続いた。どの本を読んだか、どの作家が好きか。小さなことから会話は始まり、少しずつ距離が縮まっていった。ある日、彼女が「最近、戦国時代の本を読んでるの」と話しかけてきた。私は正直、戦国武将のことはほとんど知らなかったが、「それなら一緒に読んでみようかな」と答えた。すると、彼女は少し驚いた顔をして微笑んだ。それだけで、胸の奥が温かくなったのを覚えている。
ある放課後、図書室で二人、本棚の整理していると、彼女がふと「久保田君、これ面白いですよ」と本を手渡してくれた。その本は、私が興味を持ちそうな推理小説だった。私は恥ずかしそうに受け取り、少しずつ読み始めた。「どう思った?」と彼女が尋ねる。感想を言うたびに、彼女は目を輝かせて聞いてくれた。たった数十ページのやり取りだったが、そこから会話が広がり、互いに笑い合う瞬間が増えていった。
あの頃、私は読書を通じて彼女の世界に少しずつ触れ、彼女との心の距離を縮めていった。
また、図書館の活動中に小さな事件もあった。ある日のこと、彼女が探していた本が見つからず、二人で棚を探し回った。最初はぎこちない沈黙が続いたが、やがて「こんなところにあるなんて、図書館も面白いね」と彼女が笑った。その笑顔に、私は心の底からほっとした気持ちになった。その日を境に、図書館の時間が私たちにとって特別な時間になった。
さらに、彼女は私が苦手だった長文の読み方のコツをさりげなく教えてくれた。どの部分に注目すれば物語が理解しやすいか、登場人物の心理をどう読み取るか。彼女の説明は丁寧で、決して偉そうではなかった。むしろ、優しく私を導くような感覚だった。私も彼女の話に耳を傾けることで、少しずつ読書の楽しみを感じられるようになった。
妻は時代小説が好きで、戦国武将の逸話や本能寺の変の真相について考察したり、時には談笑した。私はその会話に加わるため、さらに本を読み続けた。時代背景を理解し、人物像を頭の中で描きながら、会話に参加することで、妻の世界に少しずつ近づいていったのだ。勿論世間話だってする。
深見:「久保田君、今日のテストどうだった?」
久保田:「また、赤点だったよ。これが終わったら補習だよ。だから、今日発売の新刊を一緒に買いにいけない。だから先に帰って。」
深見:「…」
久保田:「今度で良いから勉強方法教えて」
深見:「勉強方法なんて、人によるんだから、貴方は型に囚われすぎなのよ、オリジナリティが足りないのよ。ま、私ので良いなら」
しばらくして、
がらがらがら、図書室の扉が開いた。
久保田、深見「坂本先生!」
坂本:「久保田、すまん。今日の補習だが、今やっている腰山と長谷川の試験対策が長引きそうなんだ。あいつら、いつもは自学でそんな、俺に聞かないのにどうして、すまん、だから、明日でも良いか?」
久保田:「はい、大丈夫です。」
図書館で過ごす時間は、静かで落ち着いた幸福に満ちていた。本を並べる音、ページをめくる指先の感触、窓から差し込む柔らかな光。そうした小さな日常の中で、私は文字を読むことの楽しさを心から感じるようになった。最初は妻と話題を合わせるための手段だった読書が、次第に自分自身を豊かにするものになっていったのだ。
あの頃、読書を通じて得たものは、ただの知識や読解力だけではなかった。妻の笑顔や興味、思考の深さを理解し、共感する力を身につけるための手段でもあった。そして、無邪気に本の話をする彼女の横顔を見つめるたびに、自分の心が静かに満たされていくのを感じていた。読書を通して、私は文字の海の中で彼女の心に少しずつ触れ、同時に自分自身の成長をも実感していたのだ。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日:11月23日 10時,14時,18時,22時(社会情勢によって変動。)
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