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第六話:期待の秀才

【注意事項】


本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。


読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。


心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。


※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。

その日は静かな朝だった。私の名前は徳大寺とくだいじ 彩羅さら

朝日が昇る頃、私はキッチンで朝食をとっていた。トースターでパンを温め、鍋でコーンスープを作る。酢と青汁を口に含み、今日一日の気合いを入れる。テレビの占いでは、「今日の運勢は1位、仕事運がナンバーワン」とのことだった。


続いてニュースが流れる。

「俳優の小波武さんが亡くなられて今日で49日、偲ぶ会が開催されます。一般人も参加可能とのことです。」

さらに続くニュースに、私の朝は淡々と流れていった。

「先日、某国で“ルナの涙”という宝石が盗難にあったようです。時価はおよそ…」


ポーッ、とやかんの湯気が立ち上る音がキッチンに響いた。


続いて、名古さんの散歩コーナー。

「はーい、名古です。本日は橙林町とうりんちょうに来ています。橙林町の名物、橙林焼きそば、本日もにぎわっています。赤林町せきりんちょうで開催されるバザーにも出店するみたいですよ。」


「おいしそー……今度食べてみないと」

そう思いながら、私は家を出た。


今日は特別な日だ。私は第一志望の会社、Hard Bankに内定をもらったばかり。Hard Bankは日本でも有数の大企業。


学生時代、必死に勉強して学年トップ10に入り、「キュア・サポート」という、学生の悩み相談や勉強支援を行う活動にも取り組んでいた。昼休みや放課後に学生の話を聞く活動から、庶務課や教務課からの仕事依頼もあった。そんな中学内推薦での入社が決まった。知らない人はいないほど競争倍率が高く、どこにでもいる普通のOLになるはずだった。しかし、歓迎会でその予想は音を立てて崩れた。


演台に立ち、他の新入社員と上司の前で自己紹介をする。趣味や一言を話す者、ギャグを飛ばす者、さまざまだ。私は短く、誠意を込めた自己紹介をした。心臓が少し早鐘のように打っているのを感じながらも、落ち着いて話すことを意識した。


その後、グループディスカッションが始まる。近くの人や興味を持った人と4人一組になった。私の班は鰻山準、蛇島一成、鮫谷香の三人だ。


鰻山準:U県右わき腹町出身。趣味はゲームと映画鑑賞。最近は御朱印集めに夢中。


蛇島一成:C県麺花町出身。趣味はボーリングと釣り。最近は山登りにハマっている。


鮫谷香:A県壁薔薇町出身。趣味は手品と塗り絵。最近はビリヤードに夢中。


話は自然に、今流行りの「パチモン」の話題に移った。パチモンとは、「パチッとモンスター」の略で、主人公と相棒のパチモンが各地を旅して捕まえながらチャンピオンを目指す、世界的に人気のアニメ作品だ。私は名前だけ知っていて、最新作までは追えていなかった。


鰻山がにやりと笑い、言った。

「マスクローニャンとワオワエン、どっちがかっこいいと思う?」


私は一瞬頭が真っ白になった。知らなかった……。

反射的に携帯で調べようとしたその瞬間、鋭い声が響いた。

「徳大寺、お前なにやってる?!」


心臓が跳ね上がる。手のひらが汗でじっとりとする。

「えっ……あー、これは……」

「言い訳は不要だ。」


周囲が凍りつく。誰も上司に逆らえない。その圧に押しつぶされそうになる。上司の名札を見ると「木下宝持」とある。後に知ったが、Hard Bankでも有数のやり手で、社内最上位に近い地位を持つ人物だった。以降、私は木下に目を付けられることになる。



その後の討論は「新入社員だからこそできること」をテーマに進んだ。

しかし、鰻山と蛇島は意気投合してしまい、関係ない話に夢中になる。話す声の端で笑い声が聞こえるたび、私はどう注意していいか分からず歯がゆい思いを抱えていた。やがて二人は討論中に居眠りを始め、机に突っ伏している。


その時、木下が教室に現れた。視線が一斉に向けられ、空気が一瞬で張り詰める。鰻山の顔を見ると、同郷ということと、過去に学校の会社見学で顔を合わせていた経験もあってか、目を輝かせながら説明に聞き入っている。自己紹介での一発ギャグもあって、木下にとっては期待の新人に映るのだろう。


「おい、起きろ鰻山。全くこいつらは本当に変わらないな。」

木下の声は低く、しかし鋭く響いた。蛇島も鰻山と仲良くしているせいか、軽く注意されるだけで済んでいる。二人のことを見る木下の視線には、私へのあの時の威圧はなく、どこか甘さすら感じられた。


私は鮫谷さんと顔を見合わせ、緊張で手のひらがじっとり汗ばんでいるのを感じながら意見を出し合った。討論のまとめ役を決める場面になり、最初は鮫谷さんが発表する予定だった。しかし、彼女の手が小刻みに震えているのを見て、私は覚悟を決め、代わりに前に出た。


読んでくださり、ありがとうございます。








重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。




彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。




一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。








次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。




次回更新日:2025年8月24日(日) 8時(社会情勢によって変動。)


次回予告:・・・

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