第五十六話:青空のくもり
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
一睡もできなかった夜が明け、目を覚ました私は、まるで夢の中にいるような気分だった。体が重く、目を開けるのがやっとだった。
夜中、父のことを考え、病院での出来事が頭の中で何度も繰り返し映し出されて、寝ているのに眠っている気がしなかった。
母は現実を受け入れようとしているのを見て、私はどうしていいのかわからなかった。言葉が出ない。
どうしても、あの「ピッ、ピッ、ピッ」という機械音が頭から離れなかった。あの音が、父の命を代弁しているかのように響いていた。心拍数が、まるで私の心そのものを表しているようで。
それに、空き巣あんなひどいことがあったなんて信じられない。家の戸棚を見る度に思い出す。暗闇の中の、あの惨状を。
誰かが入って、私のものを盗んでいったなんて。でも、私はそのことを誰にも話せなかった。誰かに話すと、また何かが壊れてしまいそうで、恐ろしかった。何もかもが崩れそうで、呼吸がしづらかった。
でも、学校には行かなければならなかった。自分に言い聞かせながら、ぼんやりとした頭いつも通りのように家を出た。
学校に着くと、頭がぼんやりとしていた。授業中、先生が何を話しているのかもわからない。ノートに鉛筆を走らせる手が、時折震えていた。それでも、誰かに気づかれることが怖くて、必死に顔を上げることを避けた。目を合わせるのが、もう怖くて仕方なかった。
休み時間になり、校庭に出ると、他の子たちは何事もなかったかのように楽しそうに遊んでいる。私もいつも通りにドッヂボールをしようと思った。でも、その時、男子の一人が突然言った。
「俺、あいつの家の近所だから、あいつの家泥棒に入られたらしいぜ。」
「菜穂菌、こっちくんな。」
その言葉が耳に入った瞬間、心の中で何かが割れる音がした。
「お前らもあいつに関わんないほうがいいよ。不運が移る。」
何も言えなかった。目の前が一気に暗くなり、目の前にいた男子たちが一人、また一人と私の周りを離れていくのがわかった。
その場に残されたのは、私ひとりだけ。校庭の広さが、急に大きく感じられた。みんなが笑いながら遊んでいるのに、私はひとりでぽつんと立ち尽くしていた。
周りの声が次第に遠くなり、私はただただ立ちすくんでいた。心の中で「どうしてこんなことになったんだろう?」と、何度も何度も繰り返していた。父のことも、空き巣のことも、どれもこれも自分を責めたくなるような出来事だった。
「どうして私だけ……」
心の中で呟いても、誰も答えてくれない。
校庭の隅で、独りぼっちでいると、胸が苦しくて呼吸ができなくなりそうだった。こんなとき、何をしても心は落ち着かない。みんなが楽しんでいる中で、私はどこにも居場所がないみたいに感じた。
そのまま、私は一人で校庭を歩きながら、ふと目を上げた。空は青く、雲ひとつないのに、私の心は何もかもが曇っているようだった。
もう何もかもが怖くて、どうしたらいいのか分からない。父がいなくなり、家も壊れて、学校でも私を避けられる。どこにも居場所がないような気がして、心がどんどんと暗くなっていった。
「どうしてこんなことになったんだろう…」
誰も私の気持ちを理解してくれないんじゃないかって。
放課後、私は自宅に帰りカバンを置いて財布を持って外へ出た。
何も考えられなかった。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日:11月02日 22時(社会情勢によって変動。)




