第五十五話:壊れた家の夜
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
玄関の扉を開けた瞬間、何かが違うことを直感的に感じた。真っ暗な部屋で電気をつけると、家中の扉が開いていた。キッチンの戸棚、玄関の靴入れ、自室の金庫――机の引き出しも全部開けられ、書類が床に散乱している。慌てて警察に通報したが、どうしても家の中の様子が気になり、玄関に置いてあった金属バットを手に取り中に入った。しかし、人影はすでになかった。
窓を見ると、レバーハンドル付近のガラスが一部割れていた。玄関のチャイムの映像には、犯人の手だけが映っていた。しばらくして警察が到着する。最近、この地区では空き巣被害が連続しているらしい。
母が警察に説明していた。私の部屋では、偶然買っていた宝くじが犯人にお札と勘違いされ、床にばらまかれていた。それ以外は、亡くなった祖父が買ってくれた金やお年玉の入った金庫は無事だった。しかし母は憔悴していた。結婚祝いに祖父が買ってくれた真珠のネックレスや、祖母がくれたルビーの指輪などの金品はすべて盗まれた。父の部屋では書類が散乱し、金庫はこじ開けられていて、私がもしもの時のために貯めていた日本紙幣と外国の通貨も全て失われていた。
玄関のチャイムの映像から犯行時間は午後6時前後と推察される。近隣住民によれば、その時間、この家からどたばたと物音が聞こえていたらしい。警察官たちは家の中に白い粉をまき、犯人の足跡や痕跡を調べた。私たちも指紋や足跡を取られた。捜査が一段落したのは夜の10時過ぎ。警察が撤収した後、私たちは片付けを始め、終えたのは日付を越えた頃だった。
母曰く、数か月前から家の前の街灯に人影を見かけていたらしい。しかし関わりたくない気持ちから通報を躊躇していたという。おそらく、私が数日前に見かけた人影と同じだろう。父のことで頭がいっぱいだった自分にも、一部原因があったのかもしれない。
「あの時、誰かに相談していたら、何かが変わっていたのだろうか…」
夜ご飯を食べ、学校の準備をした。片付けと警察対応で体は重く、心も疲れ切っていた。布団に入っても手の震えは止まらず、胸の奥でざわつく感情はなかなか収まらない。呼吸を整え目を閉じても、散らかった部屋の光景や犯人の手の映像が頭から離れない。
母がそっと横に座り、「目を閉じているだけでもいいから」と声をかけてくれたが、心のざわめきは収まらなかった。結局、一睡もできないまま、冷たい朝の光が窓から差し込むのを迎えた。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日:11月02日 18時,22時(社会情勢によって変動。)




