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自殺請負人ー依頼は、命の終わらせ方ー  作者: マイライト
街を見下ろす父

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50/65

第五十話:八分の永遠

【注意事項】

本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。

読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。

心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。


※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。

風が吹く。おばあさんの帽子が揺れた。

「……いいでしょう。今日から、あなたは弟子です。」

「じゃあ、行きますよ。貴方の家に」

「はあ?まず、彼を助けないのか?」

「・・・」


そうこうしていると近所の主婦が携帯で119番を押しながら、震える声で住所を読み上げた。


――「交差点で人がはねられました!男性、意識ありません!」


救急車が到着するまで、わずか8分。

だが、その8分は永遠のように長かった。


救急隊員が到着し、冷静に動き出す。

「脈あり。呼吸浅い。頭部外傷。すぐ搬送。」

「免許証確認、氏名は……三浦、・・・」


名刺入れから会社の名刺が見つかった。

《株式会社トーセイ精機  三浦 誠》

救急隊員の一人がそれを手帳に写し、無線で報告を入れる。


「患者、三浦 誠、勤務先トーセイ精機。家族へ連絡要。」


サイレンが途切れなく鳴り響く。

隊員が酸素マスクを固定し、もう一人が無線で病院に状況を伝える。


「意識レベル3。心拍不安定。出血中等量。到着まで5分。」


その横で、助手席の隊員が名刺に記された番号へ電話をかけた。

留守電だった。


「……はい、トーセイ精機様でしょうか?こちら救急隊です。社員の三浦誠さんが交通事故で搬送中です。」


チャイムが鳴る。

誠の妻、歩美は朝食を片づけていた手を止め、玄関へ向かった。


インターホン越しに見えたのは、近所の消防団員と救急隊員。

「三浦誠さんのご家族の方でしょうか。奥様ですか?」

「……はい。何か……?」


「ご主人が今朝、出勤途中に交通事故に遭われました。現在、橙林中央病院に搬送中です。」


その言葉が耳に届いても、意味がすぐには理解できなかった。

「……え?事故?怪我は……?」

「詳しい容体は病院で医師が説明します。すぐにお越しください。」


娘の菜穂がリビングから顔を出す。

「ママ?どうしたの?」

歩美は声を絞り出した。

「……パパが、事故にあったの。」


菜穂の手が震え、スプーンが床に落ちる音が響いた。


橙林中央病院


救急搬入口には、歩美が到着した。

看護師が受付で冷静に言う。

「ご家族の方ですね。現在、手術準備中です。医師から説明があります。」


病室のドアの前、歩美の手には夫の通勤カバンが握られていた。

中には、菜穂の写真付きの財布。


やがて現れた医師が、淡々と口を開いた。

「最善は尽くしますが、頭部への強い衝撃で脳に損傷があります。意識は戻らない可能性が高いです。」


歩美の膝が崩れ、菜穂が慌てて支えた。


「なんで……なんでこんなことに……」

同僚の一人が呟いた。

「昨日も徹夜だったんだ。疲れてたんだよ、きっと。」


トーセイ精機の事務所では、朝礼が中止され、静まり返っていた。

上司が重い口調で言った。

「三浦さん、意識不明の重体だそうだ。しばらく業務は引き継ぎ体制にする。」

若手社員の一人が小声で呟いた。

「昨日、また納期のことで怒鳴られてましたよね……」

誰も返事をしなかった。


蛍光灯の下で、パソコンの電源ランプだけが点滅している。

デスクの上には、昨日の報告書。

三浦が最後に触れた書類だ。


あかしは言葉を失った。

ただ、遠くから聞こえる歩美の泣き声だけが、

現実を無理やり引き戻していた。


歩美は、説明を聞いても理解できないようにぼんやりとうなずいていた。

菜穂は、病室の隅にいる。

だが返事はなかった。


清掃員の姿をした“彼女”が、その光景を見つめていた。

自殺請負人。


背後に立つ青年――あかしが口を開く。

「これは……事故だろ? 彼は死ぬつもりなんて――」


請負人は静かに遮る。

「死はいつも、社会がつくる。“たまたま”なんてないんです。」


歩美の叫び。

その中で、請負人はただ目を閉じていた。


雨が降り始めた。

あかしは、病院の出入口の屋根の下で立ち尽くしていた。

白い息が夜気に溶ける。


請負人が隣に立ち、傘を差しながら言った。

「彼の娘は、今“何か”を失った。

 その空白に、何が入るかで人生が変わる。しかし青年、それは貴方の役目ではない。これ以上の深追いは危険です。」


「放っておけない。」

あかしの声は震えていた。


そういうとあかしは走った。


いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。


重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。


彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。


一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。


次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。


次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

次回更新日:10月26日 14時,18時,22時(社会情勢によって変動。)

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