第四十二話: 事後整理
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
私は暗闇の中、手探りで脈を取った。反応はない。――すでに遺体となっていた。
「お疲れさまでした、林さん。上手く……いけたみたいですね。そちらでの気分はいかがですか? あなたがずっと行きたがっていた場所ですよ」
小さく呟き、私は自分の痕跡を一つひとつ消していく。
遺体を車の後部座席に乗せ、警察や監視カメラの死角を縫うように走らせた。
街の灯が遠ざかるにつれ、夜はより濃く沈んでいく。
どこまでも続く無人の道を進むうちに、やがて古びた屋敷が見えてきた。
その外観は、まるで幽霊屋敷のようだった。錆びついた鉄柵、割れた窓、崩れかけた外壁。
とても人が住んでいるとは思えない。
私は車を地下のスロープへと滑り込ませる。
冷たい空気が漂う地下室で、遺体の処理を終えるころには、窓の外に朝日が昇り始めていた。
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バザーから一夜が明け、朝日とともに目を覚ます。
「……もう、バザーは終わったんだっつうの」
手のひらには、汗のにおいの染みついた麦わら帽子。内側には黒い線が走っていた。――あの店長さんがくれたものだ。
あの日の記憶が、静かに蘇る。
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【最終日】
バザーが終わり、少し離れた公園で打ち上げが行われた。
大学生の山本が笑いながら言う。
「しかし、あか、最終日の詰めは長澤さんにも負けないくらいの手際だったよね」
長澤が肩をすくめる。
「まだまだ半人前だよ」
店長が笑って言った。
「よし、もう二十時だ。そろそろお開きにするか」
片付けが終わると、店長は全員に向かって頭を下げた。
「三日間、手伝ってくれてありがとう。もし来年も縁があれば、またよろしくお願いします」
「では皆さん、お元気で」
人々はそれぞれの方向へ散っていった。
その中で、店長がこちらへ駆け寄ってくる。
「あか、三日間ありがとな。ほんと助かったよ」
「店長、こちらこそ。押しかけなのに働かせてもらって、たくさん勉強になりました。ありがとうございました」
「そうか。……麦わら帽、持ってきたよな? じゃあ、元気でな」
「はい、持ってます。店長さんこそ、お元気で」
そう言葉を交わし、店長は黒い車に乗って去っていった。
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「おう、あか。もう起きたか? まだ寝てろ。お前は疲れてるんだから」
一人のホームレスが声を掛けてきた。
「でも……」
「いいからいいから。細かいことはやっとくから」
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて……」
「おう、気にすんな」
次に目を覚ましたのは、夕方だった。
「お、お目覚めか?」
「あ、どうも」
「これでも食べて、精をつけろ」
冷めた味噌汁を差し出された。
「それと、やっさんから、あかにこれ」
手渡されたのは、亀のストラップだった。
「“お前の気持ちだけで十分だ。これは俺が持つべきものじゃない”ってよ」
「……気に入らなかったのかな、やっさん」
「さあな。ちなみに、もう行ったよ。“よろしく”だとさ」
そう言い残し、男は自分の家へ戻っていった。
私は体の奥にじわりとしたざわめきを感じ、気分転換に隣町まで歩くことにした。
やがて橙林町にたどり着く。
あたりは闇に沈み、妙な静けさが漂っていた。
真っ黒な夜の中、ひときわ目立つ白いオフィスビルがそびえている。
その姿はまるで、街を見張る監視塔のようだった。
無機質な蛍光灯が、窓の奥で静かに瞬いていた。
そこのビルの屋上に男性がフェンスの外に立っているのを俺は見つけた。
そして、俺は大きな声で言葉を掛けた「バカなマネはやめろ。今すぐ戻れ。」
―――――――――――その声はやつの耳にも入っていた。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日:10月12日 14時,18時,22時(社会情勢によって変動。)
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文責:マイライト




