第四話:闇に響く警報
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
夜明け前、雨音が途切れたマンションの一室。
人気俳優・小波 武は、冷たい床に横たわっていた。
手首に赤い痕。浴槽からあふれ出す水。
それを発見したのは、小波のマネージャー佐藤 肇。ここ数日の小波の異変を感じてはいたが、その異変が確信に変わったのは無遅刻無欠席の小波が雑誌の打ち合わせに無断欠席したとき、佐藤には最悪の結末が頭をよぎった。小波の「肇さん、大丈夫だよ、誰にも言わないでお願い。信じて俺を」という言葉を信じった結果はあまりのも残酷であった。
泣きながら、警察と事務所に連絡を入れた。すぐに警察が駆け付けた。
夜明け前、警察官の無線が静かなマンションの廊下に響く。
「現場到着。確認を開始する。」
現場を担当するのは警視庁捜査一課の高坂と部下の真田。二人は現場に入る前に手袋やマスクを装着し、慎重に室内に足を踏み入れた。
部屋は薄暗く、冷たい空気が漂っている。浴槽からは水があふれ、床には水たまりができていた。遺体は床に横たわり、手首には鮮明な切り傷が見えた。
高坂は周囲の状況を丁寧に観察しながら、写真撮影班に指示を出す。
「遺体の位置と周囲の状況を詳細に記録しろ。血痕の広がりも正確に撮影だ。」
真田は遺体の近くに落ちているエンディングノートと遺書のコピーを慎重に回収し、封筒に入れて保管した。
「浴槽の水はまだ温かいか?」高坂が尋ねると、協力医の晴沢が頷いた。
「死後間もないと推定される。体温もまだ完全に冷えていません。」
高坂はマネージャーの佐藤から事情聴取を開始。
「ここ数日の被害者の様子に変わったところは?」
佐藤は緊張しながらも、可能な限り詳細に答えた。
捜査官たちは現場の痕跡を細かく検証し、動線を推定し、死因を明らかにするための初動捜査を行う。
高坂は遺体のそばに跪き、慎重に手首の切り傷を観察した。
「傷口は鮮明で、かなり深い。動脈は確実に切断されているな」
真田は浴槽の水の流れを確認しながら、床の水たまりの広がりを測定した。
「血液の流れと水の動きに不自然な点は見当たりません」
晴沢協力医は遺体の口腔内をチェックし、舌の色や気道の状態を詳細に調べた。
「窒息や外傷は認められず、失血による死が妥当です」
高坂は部屋の電気メーターを確認し、停電や異常な電気使用がなかったことを確認した。
また、現場の窓やドアの施錠状態も入念にチェック。外部からの侵入痕はなかった。
「遺書は?内容は確認したか?」高坂が訊くと、真田が答えた。
「はい、遺書は本人の筆跡と思われるものがありました。自殺の意思が示されています」
「わかった。現段階では自殺の線で処理する。だが、何かあればすぐに報告を」
捜査は静かに終了し、遺体は司法解剖のために搬送された。
現場検証は迅速かつ丁寧に行われ、警察は自殺として事件を処理する準備を整えた。
司法解剖の結果が出るまでの数日間、高坂と真田は捜査資料を整理しつつ、関係者への聞き込みを続けていた。
「小波の精神状態について、もう少し詳しく知りたい」
高坂はマネージャーの佐藤に尋ねる。
佐藤は沈んだ表情で答えた。
「彼はここ数週間、疲れ切っていました。仕事のプレッシャーも相当なもので、時折誰にも言えない悩みを抱えているようでした」
一方で、事務所スタッフからは「自殺の兆候はなかった」という声も聞かれ、矛盾が浮かび上がる。
司法解剖の結果は、「死因は大量失血による急性出血性ショック」との報告だった。
薬物や毒物の反応は一切検出されず、身体に暴力の痕跡もなかった。
これで捜査はさらに自殺の可能性を強くし、事件は自殺として終結する方向へ動き出した。
司法解剖の結果が公表されると、マスコミは一斉に動き出した。
読んでくださり、ありがとうございます。
重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。
彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。