第三十七話:小さな役立ち
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
俺は受け取ったシェーバーを手に、苦笑いを浮かべた。
「……確かに、このままじゃ商売になりませんね」
「だろ? 働く気あるなら清潔感は大事だ。昼の波が終わるまで頼む」
鉄板の前で男は慣れた手つきで生地を流し込み、俺に言った。
「で、本当のところ、何の用だ。たい焼き食いたいだけじゃないだろ?」
「ええ……ちょっと人を探していて、“自殺請負人”って言葉、聞いたことありませんか?」
男は手を動かしながら眉をひそめる。
「なんだそりゃ? 怪談か? この辺じゃ夜な夜な色んな噂が飛ぶけど……そんな仕事人は聞いたことねえな」
「……そうですか」
「町内会や警察にでも聞いてみな。俺らは毎日粉と格闘してるだけだ」
その言葉を胸に、俺は髭を剃り、渡されたシャツを着た。
「中で何をやっても良いが死ぬな。」
「ちなみに去年は俺が倒れて救急車を呼んだから。」
「はい。分かりました。」
男は軽く笑い、「裏でポテト詰めてくれ」と指示して戻っていった。
バックヤードは揚げ物の熱で蒸し暑く、エアコンをつけてもドアが開っきぱなしのため無いに等しかった効果は薄い。
そこには、主婦や学生、留学生、高校生など、様々な人々が作業していた。
「名前は?」
「あかしです。色々あって手伝うことになりました」
「そっか、次から次へとポテトやから揚げ、たこ焼き、焼きそばが来るから、手際良くやるんだよ」
長澤さんという80歳くらいのおばあさんの手際は圧巻だった。一秒もかからず5個のから揚げをタッパーに詰めていく。俺がやると手が熱くて手間取るのに、軍手を重ねても手も足も出ない。
昼になり、店は大繁盛。次々に詰めた惣菜は飛ぶように売れていく。
昼食を取る余裕はなく、とにかく詰めていった。帰ろうとして店長に帰る挨拶に行ったところ、
店長は申し訳なさそうに言った。「あかーー、すまん、1時間延長で」
俺は笑って応えた。「分かりました」
結局、延長は次々と続き、15時にようやく作業終了。帰り際、店長から、「あか、今日は手伝ってくれてありがとう。これ少ないが、みんなで分けてくれ」と、から揚げ入りのタッパーと封筒を渡された。4千円が入っていた。
「明日は朝4時な、頼んだぞ、あかし」
テントに戻ると、やっさんは他のホームレスたちとべろべろだった。
「やっさん、これお土産。冷めてるけど食べてみて」
「食べたのか?」
「いや、これから他の店を回るから」
「そうなのか。17時には店閉まるぞ、急げ」
16時:
焼きそば屋:エススセンチュリーの店員に声をかけると、
「あーそれ知ってる! ネットで見たやつだろ、“頼めば死なせてくれる人”ってやつ」
「いると思うんです」
「そうか、頑張れよ」
骨董品屋:ダイヅでは、おじいちゃんの店員が自殺請負人の噂から口裂け女や河童、ツチノコの話まで派生して教えてくれた。
気づけばあたりは真っ暗。2時間以上も話していたことになる。
テントに戻ると、空腹感よりも疲労感が強く、くたくたで眠りに落ちた。
でも、その疲労は満足感に満たされていた。
今日の作業は忙しかったけど、いつもとは少し違った。誰かの笑顔を間近で見られる、直接喜んでもらえる瞬間があったから…
今日、俺は少しだけ、自分が役に立てる世界を感じられたから――。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日:10月05日 10時,14時,18時,22時(社会情勢によって変動。)
次回予告:不思議な人物が登場します。




