第三十六話: 青年の違和感
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
痛みをよそに一通りぐるっと会場を回ってみた。
相変わらずの賑わい――色とりどりのテント、漂う焼きそばの匂い、子どもの笑い声。人の波の中を縫うように歩きながら、俺は注意深く耳を澄ませていた。
だが――手ごたえはない。
それでも、まだ聞き込みができていない店がいくつか残っている。
まず、「焼きそば屋:エススセンチュリー」:看板商品は橙林焼きそばらしく、長蛇の列が絶えない。とても今は近づけそうにない。
「たい焼き屋:並並並」:甘い香りが漂う屋台。一番空いている。
「射的屋:ムカモ屋」:景品を狙う子どもと、それを見守る親たちのざわめきが響いている。
「古着屋:JPM」:古着以外にも、し嗜好品から雑貨品など幅広く色々な物を売っている。
「骨董品屋:ダイヅ」:年配のお客が多い。都市伝説や怪談話に詳しい人が紛れているかもしれない。
あとは、奥の広場で歌っている――演歌歌手の小波 清。
例年、地元の盛り上げ要員として呼ばれている演歌歌手だが、今年もステージから漏れてくる力強い歌声は、観客たちの胸を高鳴らせていく。あんな事件があったのにメンタルが強い人だな。と思っていると
やっさんは、少し離れた場所でカメラを構えていた。
広場の片隅で缶コーヒーを片手に、無言でシャッターを切っている。
いつもなら軽口の一つや二つは投げてくるのに、今日はどこか静かだ。
何かを考えているのか、それとも何も考えていないふりをしているのか。
(……気のせい、か?)
俺は胸の奥に湧きかけた違和感を、飲み込んだ。
とにかく、残っている店を回らなきゃならない。
どこかに「自殺請負人?」に関する何かが転がっているかもしれない。
微かな希望を拾い集めるように、俺はまずたい焼き屋のほうへと歩き出した。
たい焼き屋のお兄ちゃんはいかにもという感じだった。頭にはタオルをして火傷対策だろうか両手に軍手をしている。髭のそり残しが目立っていて右腕には火傷の跡が痛々しく残っている。
「すみません、少しお話を伺いたいんですが」
「……あんた、客か? 悪いが今は手が回らねえ。昼のピークが来る前に仕込みを終わらせないと死ぬんだよ」
熱気に包まれた鉄板の前で、男は額の汗をぬぐいながら吐き捨てるように言った。
「じゃあ、手伝います。ちょうど仕事を探していたところなんで」
「はぁ? ……バカ言え。金なんざ出せねえし、それに――」
男の目が俺の顎をじろりと見た。
「そのみっともない無精髭じゃ、客が逃げるわ。働きたいならまずこれ使え」
そう言って、カウンター下から電動シェーバーを取り出し、突き出してきた。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日:9月28日 22時(社会情勢によって変動。)
次回予告:青年が感じたこととは




