第三十五話: 霧の中の光
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
俺が集めたい情報はただ一つ。「自殺請負人」。
誰が聞いても都市伝説みたいに笑われる。でも、俺には無視できない言葉なんだ。
やっさんには話していない。言えるわけがない。
あの日――俺がやっさんに拾われた夜、真冬の河川敷で震えていた俺は、「死にたい、死にたい」とうわごとのように繰り返していたらしい。
「自殺はダメだ。生きるんだ!」
やっさんが俺にかけたその言葉は、今でも胸に残っている。
でも、正直なところ、あのときの記憶はぼんやりとしている。
何をしていたのか、なぜ河川敷にいたのか、自分が誰なのか――全部曖昧だ。
ただひとつ、自分の口から「死にたい」という言葉が出たことだけは覚えている。
紙に書かれた「自殺請負」という文字も良く分からない。
どうしてそんな言葉を言っていたのか。なんのメモなのか
なぜ警察に対して異様な恐怖を感じるのか。
その理由を、俺はまだ知らない。
だけど、このモヤモヤを、少しずつでも晴らしていきたい。
本当の自分を思い出して、やっさんに「大丈夫だ」と胸を張って伝えたい。
あの人に、少しでも安心してもらいたいんだ。会場を歩きながら、バザーに訪れた人々に尋ねてみる。
炊き込みご飯の匂い、子どもの笑い声、古道具を並べる商人の威勢のいい声。
会場は賑わっているのに、俺の問いかけはひどく異質で、空気を凍らせたようだった。
「自殺請負人って……聞いたこと、ありませんか?」
振り返った主婦は、困惑した顔で子どもの手を引き、足早に立ち去った。
老人は「またその手の噂か」と呟き、苦笑混じりに首を振った。
誰もが触れてはいけない話題を避けるように、わずかに距離を置いていく。
孤独感が胸に押し寄せ、足が止まりかけたとき――
ざわめく群衆の中、その一言だけが妙に鮮明に胸へ突き刺さる。
まるで、ぼんやりした霧の中に小さな光が差し込んだみたいに。
今日はバザー、そして最近テレビで都市伝説特集が組まれ、その中で“自殺請負人”の話が取り上げられたという噂を耳にした。
ざわめく群衆の中、その一言だけが妙に鮮明に胸へ突き刺さる。
まるで、ぼんやりした霧の中に小さな光が差し込んだみたいに。
――何かが掴めるかもしれない。
俺は胸の奥がじんわり熱くなるのを感じながら、雑踏の中へと足を踏み出した。
その瞬間、頭に強い痛みと共にかすかな記憶の断片に、「バザーの会場らしき場所」が現れた。
なんだ・・・これ
痛みをよそに一通りぐるっと会場を回ってみた。
相変わらずの賑わい――色とりどりのテント、漂う焼きそばの匂い、子どもの笑い声。人の波の中を縫うように歩きながら、俺は注意深く耳を澄ませていた。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日:9月28日 18時,22時(社会情勢によって変動。)
次回予告:第一話~第五話を読んでおいた方が良いかも。




