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第三話:沈む夕陽、揺れる水面

【注意事項】


本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。


読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。


心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。


※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。

階段を静かに降りて、部屋に入った。

白い封筒を差し出しながら、静かに言った。

「エンディングノートと、これがお金です」


あいつは封筒を受け取り、中身の金を確かめた。

「確かに頂きました。では、どうされますか?」


俺は迷わず答えた。

「痛みなく、安らかに・・・。それさえ叶うなら、構わない」


そしてもう一つ、強く願った。

「沢城組から弟を守ってほしい。俺が死んだら、次に狙われるのは間違いなく清だ。弟には、俺のようになってほしくない。面倒ごとを巻き込みたくないんだ」


請負人は静かに頷いた。

「あなたの依頼、引き受けましょう」


俺は契約書にサインをした。

しばらくの沈黙の後、俺はあいつに興味が湧いた。

「最後に一つだけ、聞いてもいいですか?」


「何でしょう?」


「あなたは、この選択を悪だと思いますか?」


あいつはすぐに答えた。

「私は善悪で計りません。人には進みたい道を選ぶ自由がある。ただ、その選択が誰かのためであれ、自分のためであれ、私はそれを尊重するだけです」

あいつは少し考え込むように目を細め、俺に尋ねた。


そして逆に、問い返してきた。

「なぜ、私を信じたのですか?」


俺は正直に言った。

「信じたわけじゃない。ただ、少しでも現状を変えられるならと思った。それに、あんたは俺を止めなかった。その反応が妙に引っかかって…それが、信頼に変わった」


男はわずかに微笑むと、手元の鞄から小さな光る容器を取り出した。

「これで、あなたが望む安らぎが少しでも訪れることを願っています」


俺は深呼吸をし、容器に手を伸ばす。手が一瞬だけ震えた。

目を閉じると、遠い記憶が胸を満たす。

その声は湖面のように穏やかで、揺るぎがなかった。

俺はグラスを受け取り、手が一瞬震えた。

これで全てが終わるのか。何も見ずに消えてしまうのか。


だが、その瞬間、遠い記憶が胸を満たした。


――夏の夕暮れ、地方の小さな港町。

防波堤の上で、清と二人、カップラーメンとサイダーラムネを分け合った。

湯気が潮風に混ざり、しょっぱい匂いが鼻をくすぐった。


「兄ちゃん、やっぱりこれが一番うまいな」

清の笑顔は、沈む夕陽のように温かくやさしかった。


あの瞬間だけは、何もかも忘れていた。

騒がしい現実も、背負った契約も、影のような恐怖も――。

ただ二人で同じ海を見つめていた。


現実に戻り、俺は深く息を吸った。

「……清、ごめんな」

静かに目を閉じると、意識が遠く霞んでいく。

波の音が、遠く、遠くへ――。


最後に見えたのは、あの日の海と、弟の笑顔だった。

アーロンは静かに脈を測り、瞼を閉じさせた。

その表情は、驚くほど安らかに見えた。


黒い手袋をはめたまま、アーロンは部屋に残された痕跡を一つひとつ消していく。


彼の仕事は、死を「自殺」に見せるところまでが含まれていた。


部屋には安らかな空気だけが漂った。


アーロンは静かに周囲を整理する。

痕跡を残さず、そっと部屋を後にした。


扉が閉まると、そこには何もなかったかのような静けさだけが残る。

影のように、アーロンは音もなく消えていった。


読んでくださり、ありがとうございます。


重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。


彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。


一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。


次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。


次回更新日:2025年8月20日 15時(社会情勢によって変動。)


次回予告:2話投稿を予定。(小波編が完結します。)

小波の死後を描写します。2話で沢山の人物が動き始めます。

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