第二十七話:忘れられない言葉
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
あかしと出会ってから数か月が経った。
もう大丈夫だな。あかしが自分で炊き出しの列に並び、河川敷で洗濯を済ませ、安全な日雇いの仕事にも出て、少しの金で必要なものを取捨選択して買えるようになったのを見てそう感じた。
そして私は満足感の他に達成感を感じた。これで私の使命も終わりで良いかなと思っていた矢先、取材陣と話す機会があった。
炊き出しの会場で、ついでに顔を出してきたホームレスたちと一杯やっていた時
「やっさん、どうもご無沙汰してます。今年もお願いしますね。バザーの写真。」
「はい、こちらこそ。」
「だってよ、やっさん頼んだぜ。俺たちの分まで、」
「全く相変わらずだな。はいよ。」
「今年は連日の宣伝や引っ張りだこの演歌歌手や怪談師などゲストも多数出演することもあってか、例年よりも賑わいそうなんですよ。」
「任せてください。」
「では一か月後お願いしますね。我々はもう少し周辺を見てから帰りますから。」
そう言って、取材陣は散っていった。
その中の一人、まだ若い記者が私のそばに残り、声を落として言った。
「……やっさん。聞いたことありませんか? この辺りで“自殺請負人”っていう自殺を手助けする仕事人の噂を」
私は手にしていた紙コップを思わず止めた。
心臓が小さく跳ねる。
「自殺……請負人?」
記者は頷き、声を潜めて続けた。
「ある青年から知っているかと聞かれましてね。」
あの橋下でみた言葉が、再び耳の奥でよみがえる。
――自殺請負人。
「聞いたことはある。だが、詳しくは知らない。あんたにいうのもなんだが、俺は自殺が出来なかった。だから俺もそいつがもしいるのなら今からでもいいから会いたいくらいだ。」
「すまん、つい、・・・忘れてくれ。」
「とにかくそんなやつは知らない。」
その記者は私にこう言った。
「分かりました。」
四日後、再びあの記者がきた。
「先日はどうも、やっさん。取材じゃ表に出せない話があるんです。」若い記者は声を落とし、周囲を気にするように辺りを見回す。
「もし、先日の言葉が本当なら……二日後の深夜2時、河川敷にひとりで来てください。」
私は顔をしかめ、缶コーヒーを置いた。
「俺は、そういうのに興味がない。」
「ええ、分かってます。貴方の事情も、過去も……。でも、あの言葉は本気に聞こえました。」
沈黙。
夜風が吹き抜け、記者の視線がまっすぐに刺さる。
「……あんた、一体何者なんだ?」
記者は小さく笑った。
「貴方が望むものが本当にいるなら、必ず現れるはずです。では二日後に、」
そう言い残し、記者は足早に去っていった。
読んでくださり、ありがとうございます。
重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。
彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
次回更新日:2025年9月14日(日)18時更新(社会情勢によって変動)
次回予告:ついに自殺請負人登場。




