第二十五話:奇妙な生活
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
外では夜風が河川敷を吹き抜ける音がする。
だが、ここでは冷たい風から守られ、二人だけの静寂が包む。
私は青年の手を握り、そっと耳元でつぶやいた。
「もう一人じゃない……ここから、少しずつでいい、やり直そう」
その言葉に応えるように、青年の手がぎゅっと私の手を握り返した。
冷たさの中に、かすかな温もりが戻ってくるのを感じながら――
私は青年をそっと抱き上げ、ゆっくりと立ち上がった。
橋下の闇と冷たい風を背に、足元に注意しながら河川敷を歩く。
途中、河川敷の石段に差し掛かる。濡れて滑りやすい段差に足を慎重に置き、青年を支えながら一歩一歩登る。
「大丈夫……もうすぐ安全な場所に着く」
小さな声でつぶやく。自分の声は、夜の静寂に吸い込まれるようにかすれていた。
光の届く場所は、安心を取り戻すための小さな希望のようだった。
青年の肩が、私の胸に沈み込む。体はまだ冷たく、意識も不安定だ。
毛布をさらに巻き直し、背中をそっとさすりながら歩く。
「もう少しだ……もう少しで安全な場所に」
私の声には、自分への励ましのような響きも含まれていた。
使い古された小屋の明かり。河川敷沿いの廃材で作られた簡易の隠れ家だ。
ここなら外の冷たい風を避けられ、夜を凌ぐことができる。
小屋の中に入ると、私は急いで毛布を広げ、青年を横たえた。
まだ体が濡れていたため、持っていた乾いた布で水気を拭き取り、濡れた衣類を外し、代わりに私の上着をかける。
冷え切った手足を自分の掌で包み、じわりと体温を伝えていく。
「呼吸は……あるな。よし……」
口元に手を当て、かすかな吐息を確認する。胸も小さく上下している。
私はポリタンクに残っていた水を少しだけカップに注ぎ、唇を湿らせるように彼に与えた。意識は薄いが、喉がわずかに動き、わずかな水を飲み込んだ。
その反応に、胸の奥で張り詰めていた緊張が少しだけ緩む。
「ここなら大丈夫だ。君の体を休めよう」
そう言って、青年の体を毛布でしっかり包み込む。
自分の背中を壁にもたせかけ、青年の頭を自分の膝に預けるようにして座り込んだ。
「……何をやってるんだ、俺は」
思わず口からこぼれた言葉に、自分でも驚いた。
「まだ死ぬことすら許されていないのか?」
そう呟いたとき、頬を伝うものがあった。気づけば泣いていた。
夜空を見上げる。月の光は弱いが、どこか優しく二人を照らしていた。
「俺は……いつになったら死ねるんだ。」
そうつぶやくと、深い夜が静かに流れていった。
こうして、二人の奇妙な生活が始まった。
読んでくださり、ありがとうございます。
重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。
彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
次回更新日:9月14日(日)10時、14時、18時、22時 4話更新。 (社会情勢によって変更)
次回予告:請負人登場! 残り話数:16話。現在:4/20




