第十九話:頼もしい助っ人
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
私は目を細め、首をかしげる。
「どうして怒らなきゃいけないの? 怒ったら何か変わる? 消えたいと思う人には、それぞれ事情がある。だから私は、あなたが話したいと思うまで事情は聞かない」
「じゃあ……ずっと聞けなくてもいいの?」
「そりゃ、できるなら聞きたいよ。でも、もし事情を聞いたところで私にどうこうできるなら、もうとっくに行動してるはずだしね」
小島ちゃんはきょとんと私を見た。その率直さに、かすかな安心がにじむ。私は少し考え込んだあと、ぱんと手を打った。
「ぐぅー。朝食べてないからお腹減ったなあ……よし、オムライス作ろう。ね、手伝って?」
「オムライス?」小島ちゃんが首をかしげる。
「そう。私、料理はからっきしでさ。だから助けてもらえない?」
私が苦笑混じりに言うと、小島ちゃんは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに小さく笑った。
「……ふふ、じゃあ、私が教えてあげます」
「おっ、頼りになる!」
二人は並んで台所に立った。
玉ねぎを切るとき、私は目を押さえて「い、痛っ……涙出てきた!」と大げさに騒ぎ、小島ちゃんが思わず吹き出す。
「だから言ったじゃないですか、包丁はこうやって持たないと」
「はーい先生。……お、ほんとだ、さっきより切りやすい!」
自然と「先生」と呼ばれた少女の顔は、ほんの少し誇らしげだった。
フライパンの中で玉ねぎと鶏肉がジュウッと音を立てる。
私が慌てて木べらを動かすと、小島ちゃんが隣から覗き込む。
「強火すぎです。もう少し弱くして」
「え、そんな細かいの? すごいなあ」
「料理本で読んだだけです」
照れくさそうに答えるその声には、どこか楽しさが混じっていた。
やがて卵を焼く段になると、私は緊張した面持ちでフライパンを傾ける。
「ひっくり返すとき、どうするんだっけ?」
「勢いよく、一気に!」
「……えいっ!」
べちゃり、と失敗。二人は顔を見合わせ、同時に笑い出した。
「見た? これ、スクランブルエッグだな」
「でも美味しそうですよ」
出来上がったオムライスを二人でテーブルに運び、ケチャップで小島ちゃんが小さく絵を描いた。
「ほら、ハート」
「わっ、可愛いじゃん。センスあるな」
「子どもっぽいですよね……」
「いいの、こういうのが一番おいしそうに見えるんだから」
二人でスプーンを持ち、同時に口へ運ぶ。
「あ……思ったより美味しい」私が目を丸くする。
小島ちゃんも小さく笑い、「ですね」と頷いた。
食後、並んで皿を洗いながら、私は何気なく言った。
「ありがとね、手伝ってくれて」
「……こちらこそ、なんか久しぶりに笑いました」
その表情はどこかやわらいでいた。
やがて食器を拭き終える頃、少女がぽつりと口を開いた。
「川端のお姉ちゃん……もし良かったら、話を聞いてくれる?」
私は手を止め、真剣な眼差しで少女を見た。
「もちろん。こんな私でよければ」
読んでくださり、ありがとうございます。
重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。
彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
次回更新日:2025年8月31日(日) 20時
次回予告:・・・




