第十七話:分かった思い
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
15時:
「あ、あいつが戻ってきた。真田、どうだった?」
川端は真田に気づき、声をかける。
「大丈夫か?」
「なんでもないよ。それより助かった。恩に着るよ」
「案外、悪くなかったよ」
「そうか。小島さんも大丈夫だったか?」
小島さんが言う。
「はい。貴重なお話をたくさん聞けました」
さっきまでの冷たい気配は、もう感じられなかった。
「何か話したのか?」
「学生時代のことを少しね」
「そうか。俺も今朝、学生時代の夢を見たんだ。いやな夢だったよ」
「本当に思ってる?」
小島さんの方を見ると、安心したのか、あるいは昼食後の疲れもあって、すやすやと眠っていた。
「じゃあ、また今度にするか」
真田がそう言った。
しばらくしてから家のチャイムが響く。小島さんの母、薫さんが帰ってきた。
「小島冬香の母、薫です。」
「田中さんから聞きました。冬香を助けて、面倒を見てくださっていると。ありがとうございました。冬香は今どこに?」
「冬香さんは疲れたのか、寝室で寝ています」
「いえ、警察官として当然のことをしたまでです。それに、実際に面倒を見たのは友達の千代さんですから。私は何も」
「いえいえ、助けていただけただけでも」
「千代さんもありがとうございました。娘のその後の様子はどうでしたか?」
「冬香ちゃんはとても良い子でしたよ。それと、勝手にオムライスを作ってしまって、申し訳ありません」
「いえいえ、むしろ娘の面倒を見てくださりありがとうございました」
「これ、少ないですが…」と、マカロンを渡された。
「では、私たちはこれで」
薫は言う。
「冬香を起こしてきますね。最後にご挨拶を」
「いえいえ、大したことしてないですから」
「でもせめて何か」
「じゃあ、冬香さんが起きたら、こう伝えてくれますか?」
「…頑張れよって」
薫は首をかしげて、「はあ、分かりました。」と答えた。
帰り道:
「まったく、最後のあれ、何よ?」
千代がものまねして言う。
「じゃあ、冬香さんが起きたら、こう伝えてくれますか?」
「頑張れよって」
「ほとんど私が面倒見てたのに」
「言うだろ? 終わりよければすべて良しって」
「あの言葉は、中学時代の同級生が、たまたまコンビニで働いていた時に、俺にかけてくれたものなんだ。俺は俺は全然気づかなかったのに、会計のときにすぐに当時からだいぶ風貌も変わった俺に声をかけてくれた」
「何気ない一言だったけど、当時はそんなこと言う人じゃなかったから、頑張ろうって思えた」
「なんていう子?」
「いいだろ。誰でも。それと、いつもありがとな。」
その日の出来事はそこで幕を下ろした。
だが、同じ時刻、街のどこかでは――「死にたい」と口にする別の声が生まれていた。
同日:
アーロンのもとに一通のメールが届く。
自殺請負人様
先日、赤林町のバザー下見に取材に訪れたところ、貴方に会いたがっている人物がいます。本気で死にたがっている様子でした。
名前は林 康夫、ホームレスの方です。
また、お越しになる際はご注意ください。理由は不明ですが、貴方を探している少年がいます。
アーロンは返信する。
分かりました。情報提供ありがとう。では、林について調べましょう。その少年も一緒に調べられますか?
「もちろん、二日あれば足ります。」
「頼みますよ。」
読んでくださり、ありがとうございます。
重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。
彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
次回更新日:2025年8月31日(日) 16時
次回予告:視点がかわります。




