第十五話:頼もしい助っ人
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
私は名乗る。
「私は刑事の真田。二つ上に住んでいる。すぐにご両親が帰るんじゃないか?」
だが小島さんは小さく首を振った。
「父も母も仕事で遅いです。いつも夜中まで……」
田中さんが電話をかけても留守電につながったという。
困り顔の田中さんが言った。
「真田さん、悪いけど見ててくれない? 私、これからパートで」
私は小島さんを見た。
「俺は構わないが……小島さんは嫌だろ? こんな得体の知れない男と」
小島さんは沈黙したあと、ぽつりと答えた。
「……大丈夫です」
しかし刑事としての直感が告げる――違う。この子はまたやる。
死を選ぼうとする者だけが纏う、あの冷たい気配が漂っていた。
私ははっきり言った。
「悪いが、君の両親が戻るまでここに居させてもらう。今日のことは直接伝えなきゃならない」
小島さんは視線を逸らし、黙り込む。
時計の針の音だけが、やけに大きく響いた。
やがて、小島さんはぽつりとつぶやいた。
「……さっきは、ありがとうございました。私小島冬香と言います。」
「礼なんて要らない」真田は静かに首を振る。
「君がここにいることの方が大事だ」
小島さんは膝の上で両手を固く握りしめ、唇を噛んだ。
「私……どうしていいか、もう分からなくなってしまって、それで……」
「分からなくていい」
真田は声を和らげ、小島さんの視線の高さにあわせて腰を下ろす。
「大人だって、自分の進み方を見失う時がある。俺なんて、しょっちゅうだ」
小島さんがわずかに顔を上げると、真田は続けた。
「無理に答えを出さなくてもいい。分かるところまででいいから、少しずつ動けばいい。その一歩が必ず自分の糧になる」
ふっと笑みを漏らした。
「悩みたいなら悩めばいい。悩んだぶんだけ、人の痛みや気持ちも分かるようになる。悩むのは、弱さじゃない」
その言葉に、小島さんの胸の奥で固く凍っていたものが、ほんの少しだけ解けていく。
握りしめていた両手が、力を失ったように膝の上でほどける。
「……そう、なのかな」
かすかな声でつぶやき、少女は深く息を吐き、壁にもたれかかるように静かに眠り始めた。
携帯を切り、真田は川端に電話をかけた。
――――
真田:「川端、すまない。一つ頼めるか?」
川端:「なに、治。せっかくの休暇なのに」
真田:「今、小島さんという少女が自殺しないよう見ているんだ。その役目を変わってほしい。俺は緊急の招集がある。だからマンションの1412号室に来てほしい。夕方までには戻る。頼む、千代」
川端:「…分かった。すぐ行く」
真田:「小島さんから受け取った鍵は郵便受けに入れておく。すまないな」
読んでくださり、ありがとうございます。
重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。
彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
次回更新日:2025年8月31日(日) 10時
次回予告:事件と少女の姿が重なる真田の行動は?




