第十三話:返されたもの
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
「最後に1つ聞いていいですか?私って何か悪い事をしたのでしょうか?人からこんなに恨まれるようなことを私したと思いますか?」
ピエロは語った。
ピエロは静かに語った。「貴方は特段、悪いことも恨まれることもしていません。貴方に足りなかったのは、運だけです。それだけのことです。世の中、どれだけ実力や能力、実績、地位、名誉があっても、運がなければどうしようもできないことがあります。そして、運は自分ではどうすることもできません。その時の神の気まぐれで、気に入った人には福が、気に入らない人には試練が与えられる――ただそれだけです。考えても無駄です。」
「そうですね。無駄ですね。教えてくれてありがとう、ピエロさん。」
ピエロは無言で黒い鞄を開け、ガラス瓶に入った透明な小さな容器を取り出した。
「これは苦しみを与えません。安らかに眠れます。」
「では、行ってらっしゃい。」
「では、行って来ます。」それが彼女の最後の言葉だった。
アーロンは無言で脈を測った。
その表情は、不思議なほど安らいで見えた。
私の仕事は、死を偽装に見せるところまでが含まれている。
アーロンは黒い鞄を持ち直し、部屋を出た。
あれは薬物成分が一切でない。
翌日以降、彩羅は完全に姿を消した。誰の目にも触れることはなかった。
彩羅が行方不明になったことが、親族に伝わったのは、彼女が姿を消してから一週間後だった。当初、学校側は彩羅の体調不良による欠席だと思い込み、回復したら連絡があると考えていた。しかし、一週間経っても連絡はなく、担任が不信感を抱いたため、親族に確認を取ったところ、自宅には彩羅の姿はなかった。
その日の午後、彩羅の母・李奈と父・勝は最寄りの警察署に足を運び、事情を説明した。
「娘が一週間前から帰宅していません。学校にも連絡しましたが、音沙汰がなくて……」
警察は失踪届を受理し、聞き取りを開始。学校への確認や友人への連絡、行きそうな場所の洗い出しなど、初動捜査が始まった。
李奈は自宅に戻り、写真や制服を手に取りながら、淡い希望と深い不安が入り混じった胸の重さを感じた。勝も窓の外を見つめ、時計の針の音がやけに大きく感じられた。
夜が更けるにつれ、家の中には沈黙だけが残った。外の街灯が揺れ、遠くの車のライトがかすかに差し込む。彩羅の居場所は分からず、ただ時間だけが過ぎていく。親たちは何度も写真を見返し、記憶の中の娘の笑顔と、現在の不在の現実を交互に思い浮かべた。
「どこにいるんだ……」勝は小さくつぶやき、手のひらに汗をかきながら、祈るように目を閉じた。
警察は捜査を継続していたが、手がかりがない現状に、捜査員の表情にも焦燥が滲んでいた。
李奈は夜ごとに写真を見つめ、娘の笑顔を何度も反芻する。
「どこにいるの……」声は夜の静けさにかき消されるだけだった。
勝もまた、昼夜問わず家の周囲や近隣を歩き回り、耳を澄ませて周囲の音に神経を集中させた。しかし街のざわめきの中で、彩羅の気配はどこにもなかった。
そんな中、彼女が亡くなったあの日に不死山で不信な車を見つけたという目撃情報があった。外の街灯に映る影は、かつて家族が彩羅と過ごした日々を思い出させる。しかし、その影の向こうに娘の姿はなく、時間だけが無情に過ぎていった。
後に、これ以降の情報は出てこず、捜査は打ち切られ、彩羅は見つかることはなかった。
数日後:ピエロは夜の海を見つめていた。「今回の料金の余りは貴方の中に返却しておいたので、三途の川の乗車賃にしては多すぎると思いますので、そちらで楽しんでください。」
背後には、あの短い出来事が残した静かな余韻だけが、そっと揺れていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。
彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
次回更新日:2025年8月31日(日) 7時,8時,10時,12時,16時,18時,20時,22時(社会情勢によって変動。)
次回予告:8話投稿を予定。8月最後の休日にお届けする、ほっこり回です。




