第十二話:焼きそば
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
私はピエロに聞いた。
「何か手伝いましょうか?」
ピエロは静かに答える。
「そのままお待ちください。」
数分後、焼きそばとともに調味料が出された。
「こちら焼きそばです。お口に合わない場合は、こちらの調味料をお使いください。」
左からマヨネーズ、オイスターソース、青のり、焼き肉のたれ、橙林ソース。
「取り皿を3枚と取り橋をいただけますか?」
「はい、どうぞ。」
「せっかく作っていただいたので、よろしければ一緒に食べませんか?」
「いえ、私は結構です。」
私は3枚のお皿に取り橋で焼きそばを取り分けた。
そして、ピエロに向けて言った。
「貴方が作ってくれた焼きそば、美味しいです。
お皿の一枚はそのままの味で、もう一枚は橙林ソースをつけて橙林焼きそば風にして、もう一枚は全部載せで。」
私は3枚の焼きそばをそれぞれ食べた。
プレーン焼きそばは、甘辛いソースの香りが食欲を直撃。
箸を入れると麺がふわりとほぐれ、噛めばモチモチ。
後から広がる濃厚な旨みとソースの酸味が絶妙に絡み合う、至福の焼きそばだった。
橙林焼きそばは、噛みしめるたびに、もちもちの麺に染み込んだ茶葉の香ばしさとほのかな渋みが、ソースの濃厚な旨みと溶け合う。
柑橘の爽やかさが余韻をすっと洗い流し、次の一口を誘う――甘さ、香ばしさ、ほろ苦さが三拍子揃った、まさに“大人のごちそう焼きそば”だった。
全部載せ焼きそばは、オイスターソースと焼き肉のたれの甘辛さが重なりすぎていた。
茶葉の香ばしさと柑橘、青のりの磯の香りが少し違和感を覚えた。
仕上げのマヨネーズがとろりと絡み、甘み・酸味・塩味・旨み・香ばしさが見事に調和していなかった。
贅沢すぎる焼きそばだった。
捨てるのは申し訳ないから食べなきゃと私の様子を見て、ピエロは静かに言った。
「無理しなくて良いです。」
私は謝った。
「すみません。焼きそば、すごくおいしかったです。でも私が調味料をかけすぎた結果、食べきれませんでした。」
食べきれない分を前に、私は箸を差し出した。
「残りで申し訳ないですが、もしよかったら、食べてください。」
ピエロは一瞬迷ったあと、そっと一口だけ味見する。
「……おいしいですね。」
その静かな声に、思わず私も笑みをこぼした。
焼きそばを完食すると、香ばしい香りがまだ鼻の奥に残り、口の中には甘辛さと濃厚な旨みの余韻が漂う。
私はそっと箸を置き、片付けを手伝った。
ピエロが静かに言う。
「座っていてください。貴方はお客様です。お客様に片付けはさせられません。」
私は言った。
「私がやりたいからやっているだけです。気にしないで。青のりは冷蔵庫の上に置いておいてもいいですか?」
「はい。お願いします。」
冷蔵庫の中は、意外にも普通の家庭用のものと変わらず、少しほっとした。
私は調味料を元に戻し、手を離す。
ピエロは落ち着いた動作で皿を片付けながら言った。
「お手伝いいただきありがとうございます。残りは私がやりますから、座っていてください。」
食器の片付けを終えたピエロを見つめ、心からの感謝を込めて言った。
「ありがとう、とてもおいしかったよ。あんたの焼きそば。」
そして最後に尋ねた。
読んでくださり、ありがとうございます。
重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。
彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
次回更新日:2025年8月24日(日) 22時(社会情勢によって変動。)
次回予告:・・・




