第十一話:ピエロの館
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
「では、次に願いをお願いします。」
「正直、願いと言う、願いはありません。」
「内容はなんでも良いんですよ。復讐でも勿論良いですよ。」
「復讐か・・・」
「復讐も最初は確かに考えました。でも、それはしません。私が復讐を考えたときに私に関わってくれた全ての人に顔向けが出来なくなる。あの人たちは私の成長を願っていたはずです。少なくても復讐をしてほしくて私に愛を向けていたわけではないと思います。
そして、私の名前は彩良です。この名前の由来は昔母から心が正しく素直に育って欲しいという気持ちでつけたと聞きました。その願いは叶えられなかったけど、せめて、復讐と言う狂気に捕らわれずに、私は最後まで素直に育って死にたいと思ったからです。」
「そうですか。・・・珍しいですよ、貴方みたいな方は」
「珍しいのは、お互い様でしょ?」
「あと、このこと両親には伝えないでね。」
「分かっています。」
「では願いはなしで良いのですね?」
ピエロの顔をみて、私は言った。
「しいていうなら、最後に焼きそばを食べたい。」
「やきそば?なぜですか理由を聞いても良いですか?」
「テレビで特集をやっていたときから食べたかったのずーっと。」
「分かりました。この時間だとお店はやっていないので、私がお作りするのでよろしいでしょうか?私こうみえても料理には自信があります。」
「それでお願いします。」
「あなたの依頼、お引き受けします。」
そういうと、車はスピードを上げて山道を再び走り始めた。
続けて私は話した。
「気を失わせなくて良いんですか?私逃げるかも知れませんよ?」
「もう契約した以上。私にとって、貴方は敵では無く、お客様です。お客さまにそんな手荒な真似はできません。貴方の人間として最後のドライブを楽しんでください。」
「そう、あんたって案外そういうところのモラルはあるのね。」
屋敷?に到着した。外観はまるで幽霊屋敷のような不気味な見た目でとても人が住んでいると思えないほど錆びれていた。車で地下に降りていく。
あの部屋に通された。ピエロは話す。
「では、少々お待ちください。」
屋敷の中は予想以上に静かで、空気さえも重く沈んでいた。壁には古びた額縁が並び、埃をかぶった家具が無造作に置かれている。私は足音を立てぬよう、そっと一歩一歩進んだ。地下に降りたことで外の夜風は届かず、ただ冷たいコンクリートの匂いと湿気だけが漂う。
「……ここが、私の願いを叶える場所ですか?」と私は小声で尋ねた。
ピエロは顔を上げず、しかし穏やかに頷いた。「そうです。ここで、貴方の“最後の望み”を形にします。心配はいりません、全て私の責任です。」
私はしばらく息を整え、暗がりの中で自分の心の鼓動を聞いた。胸の奥で、少しだけ安堵が混じる。怖さと期待が交錯する、この不思議な感覚——これが、私が望んだ最後の瞬間なのだろうか。
ピエロは手際よく調理道具を取り出し、ガスの小さな炎がほのかに揺れた。焼きそばの匂いが漂い始め、暗く冷たい屋敷の空気がふわりと柔らかくなる。私はその香りに、久しぶりに少しだけ笑顔を浮かべた。
読んでくださり、ありがとうございます。
重いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はまだ続いていきます。
彼らの心の揺れ動きや選択を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
一歩ずつ前に進む姿を一緒に感じていただければ幸いです。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
次回更新日:2025年8月24日(日) 20時 (社会情勢によって変動。)
次回予告:焼きそば完成




