表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/22

Azure Blue ― 春、始まりの歌『the way home 』

 静かな午後だった。

 4月の終わり。桜は散って、キャンパスの隅に若葉が揺れていた。

 大学の音楽サークルの部室は、まだ誰の居場所でもなかった。

 新歓シーズンが終わり、仮入部の名前がホワイトボードに並ぶ。修司はその中の一人として、とりあえずギターを担いで毎日部室に通っていた。

 小さな窓の下、埃っぽいソファとジャズコーラスのアンプが無造作に置かれている。

 部屋の奥の方、誰もいないのを確かめると、修司はケースを開け、ギターを取り出した。

 自分が作ったばかりの曲―― 初めてのオリジナル。

 タイトルは「the way home 」

 ふとした時に口ずさんでいたメロディと言葉を、昨日ノートに書き留めた。

 メジャーコードとマイナーコードの混ざった、未完成のバラード。

 彼は指先を震わせながら、そっと弾き語りを始めた。

 ーー長い道のり乗り越えて 大人びた横顔になっていく

 ーー変わらないなんて嘆かないで 明日はくる

 ーーとりあえずgoing home

 歌詞の最後の一節を口にした時、ドアがふいに開いた。

「ねえ… すごく、いい曲だね」

 驚いて顔を上げると、女の子が立っていた。

 小柄で、ストレートな髪。目元にどこか不思議な影を持つ。

「あ、ごめん。入っちゃいけなかったかな」

「いや、違う、君は… 」

「新入生。音楽サークル、仮入部中の。名前は――あかり。君は?同じ1年?」

「修司。うん1 年… あ、いや、その、まだ曲、途中なんだけど」

「ううん。すごく伝わってきたよ。『とりあえずgoing home 』って、なんか… いまの私にぴったりだった」

 彼女は笑った。その笑顔に、修司の胸がすこしだけ熱くなった。

「この部屋、初めて来たのに、なんか落ち着くね… また来てもいい?」

「もちろん。まぁ、普段は大勢いるけど」

 それが、すべての始まりだった。

 あかりはその後、毎日のように部室に顔を出すようになった。

 修司の歌詞にアイデアを出してくれたり、ハーモニーを乗せたり。

「歌って、誰かに届くんだね」

 彼女のその言葉が、修司の中の何かを確かに変えた。自然とバンドも組むようになった。

 そしてその日、修司はもうひとつ大事なことを知った。

 “音楽はひとりではない”ということ。誰かがいて初めて奏でられるものがあることも。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ