Azure Blue (弾き語り配信)―― 夜の海のように
4月の風が、夜のカーテンを揺らしていた。
ライブ前夜。修司はギターを手に、窓際に腰掛けていた。
昼間、仲間たちと音合わせを終えたばかりなのに、
気持ちはまだどこか宙に浮いていた。
窓の外には、遠く高層マンションの灯りが瞬いている。
その光を眺めながら、修司はそっとスマートフォンを立ち上げた。
「―― やってみるか」
Instagram のライブ配信ボタンに、指が触れる。
視聴者は数人。たぶん、ほとんどが仲間か、偶然見つけた人たち。
でも、修司は確証はないが、感じていた。
あかりは今も時々、彼のSNS を見ているかもしれない―― ということを。
彼女のアカウントは分からなかったけれど、
共通の知人から「見ているかもよ」と聞いたのは、去年の秋だった。
だから、今日のタグはつけた。
#shujisong
#azureblue
#ただいまじゃなくて届けたい
#いつかの君へ
EM7 のコードを探して、そして、ゆっくりとコードを鳴らす。
空に映るオレンジの色が踊れば…
彼の声は、少しかすれていた。
でも、心は震えていた。
この歌は、青春の断片であり、悔しさの結晶であり―― なにより、あの人と作りかけていた未来への手紙だった。
歌い終わる頃には、視聴者は20人近くになっていた。
画面にはいくつかの“いいね”やコメントが流れていたけれど、
修司はその中の「ひとつの無言の視線」を探していた。
でも、それらしいものは、なかった。
いや―― なかったように見えただけかもしれない。
「明日のライブ待ってます・・」
そう言うと修司はそっとスマホを伏せ、ギターのボディを優しく撫でた。
「… 届いたかな」
彼女がどこにいるのか、今はまだわからない。
でも、この歌を聴いたとき、心のどこかで“あの頃”を思い出してくれたなら、それでいい。
そして、もし―― もし、少しでもまた音楽に惹かれてくれるなら。
“あの場所”に、来てくれるかもしれない。
窓の外に目をやる。
空は深く、どこまでも藍色に沈んでいた。 ―― 明日は、アジュールブルー。
修司は、ふと笑った。
もう、逃げない。
この夜を超えて、歌おう。
彼女に、そして自分自身に。
この弾き語り配信は、あかりの心にきっと届いていると信じたい。
いよいよライブ前夜、静かな決意と、“もしかしたら彼女に届くかもしれない”という一筋の希望を胸に、修司は弾き語り配信をした。
「Azure Blue 」が、夜の静けさとともに配信され、彼女に届きますように。
そんな“奇跡の予兆”を願って。
そして、クライマックスとなるライブ当日へ。