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サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜  作者: 野谷 海
第3部 巴

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最終60話 クリスマス。




 ――本日はクリスマスイブ。

 

 世間は恋人同士で賑わっているのだろうが、彼女のいない俺は、焼き鳥たまだで今日も中華鍋を振るっていた。クリスマスに焼鳥と言うと、あまりイメージがないかもしれないが、意外にも忙しかった。


 俺が後藤さんに告白してから、もう5日経つ。いつまでも待つと伝えてはいるが、一般的に告白の返事待ちって、どのくらい待つのが平均なのだろうか。ネットで調べても明確な答えは見つからない。久しぶりにアルバイトへ出勤した後藤さんは、いつもとなんら変わらず、淡々と仕事をこなしている。


「後藤さんは家でクリスマスパーティとかしないのか?」


「ええ……ここ数年は、しばらく覚えがないわね……でも毎年ケーキだけは、お母さんが買ってきてくれるわ」


 クリスマスだからって、俺は何を期待しているんだろう。誰かが決めた特別な日が、必ずしも自分にとって特別になる訳じゃない。今日別れるカップルもいれば、今日死んでしまう人もいるだろう。今日がどんな日であろうと、俺はいつも通り学校に行って、アルバイトをして、友達と遊んで、そんな毎日を特別に思っている。そう思わせてくれたのが――後藤さんだ。だからもし彼女が俺を選んでくれるなら……彼女の毎日も特別にしたい。その第一歩としてまずは、この賄いで彼女を笑顔にしよう……そう思って中華鍋を、今日一番の力で煽った。


「今日の焼きそば自信作なんだけど、どうかな?」


 座敷で俺の作った賄いをひと口食べた後藤さんに、つい感想を求めてしまう。


「ええ……凄くおいしい……」


「良かった……」


「これだけで、もうお店が出せるんじゃない?」


「それだと完全にパクリだろ……俺もいつか、自分でこんなレシピを生み出せるようにならないとな」


 

 店を出て、白い息で手を温めつつ自転車の鍵を開ける。このタイミングで後藤さんから声をかけられるのは、これで何度目になるだろう。

「ねぇ……青嶋君……」


 振り返らずとも分かった。彼女は決まって、恥ずかしそうにもじもじと体を縮こまらせていたから、今回もきっとそうだと思った。


「どうしたんだ」


 案の定――後藤さんの顔は赤く染まっていた。寒さからなのか、言いにくいことがあるのか、そんなのどっちでもいいくらいに美しい……その表情を、ずっと見ていたい、額縁に入れて飾りたい。


「前の、話なのだけれど……」


「あ、うん……」


「私、男性とお付き合いをしたことがないから……こういう時、なんて返事をしていいのか、沢山考えたわ……でも、うまくまとまらなくて……」


 彼女は、俺とは目を合わせなかったから、もしかして、またダメだったんじゃないかと思った。

「それなら、イエスかノーだけでもいいよ……」

 

「…………そう言えば、明日はクリスマスね……」


「そうだな……って、なんの話?」


「だから……イエスか、ノーで答えるなら……クリスマスよ……」


 馬鹿な俺は、彼女の言葉の意味を、しばらく考え込んでしまう。その間の後藤さんは、更に顔が赤くなり、体はプルプルと震え出していた。


「あ、なるほど……そういう意、味……か」


 ――顔を見合わせた俺たちは、数秒黙りこくる。


 

 沈黙を破ったのは、後藤さんだった。

「返事の……返事は? この数日で気が変わったりしてない……?」


「ごめん……」


 俺の突然の謝罪に、彼女の顔が曇った。

 

「あ、いや、ちがくて! そういう意味のごめんじゃなくて……本当に嬉しい時って言葉出なくなるんだと思って……」


「そう……せっかく勇気出したのに、また引っぱたくところだったわよ?」


「俺馬鹿だから……勘違いじゃないって確かめるために、もう一回、俺から言ってもいいか?」


「ええ……」


「後藤さん……俺と、付き合ってください」


「……よろしく、お願いします……」


 俺たちは、互いに笑い合うと、照れくさそうに顔を反らしてしまう。


「……来年のクリスマスは、一緒に過ごそう」


「もう来年の話? 少し気が早くないかしら……」


 もう一度、俺たちは笑った。




 ――翌日の夜、俺の家ではクリスマスパーティが開かれていた。


 企画したのは美波と愛里那。そこには小浦の姿もあったから、俺が後藤さんとのことを伝えると、「知ってるよ」と、あっさりとした返事が返ってきた。

 

 騒ぎつかれた美波と愛里那が眠った後、俺たちは少しだけ話をした。


「小浦はサンタ、好きか?」


「いきなりどうしたの? 好きだよ。今でも毎年プレゼントくれるし……」


「……前に、優しい嘘が嫌いだって小浦に言われて、あれからたまに考えてた。サンタってさ、優しい嘘(それ)の象徴みたいなとこあると思うんだ。子供に夢を与えられるんだから、やっぱ悪くないのかもしれないって、最近思うようになった」


「……サンタは、特別だよ」


「じゃあ俺も、小浦にとっての特別になれるよう、徳を積むことにする」


「青島くんはそうやってすぐズルしようとする……」


「小浦とずっと友達でいられるなら、俺はズルでもイカサマでもやる覚悟だから」


「……そんなのヤダよ。あたしはまだ1回しか振られてないんだから、彼女になるの、しばらくは諦めてあげないよ?」


「小浦こそ覚悟しとけよ? もし俺に愛想をつかせたとしても、ずっと絡んでやる。ダル絡みしてウザがられたって、それでも……嫌われるまで話しかけてやる」


「いいよ。その勝負乗ってあげる。姫とイチャイチャし過ぎて放置されたり途中で辞めたりしたら、文句言いにこっちから突撃しに行くからね?」


「……その時は、また3人で遊びに行こう」


「そうじゃなくても……でしょ?」


「そうだな……小浦、これからもよろしく」


「はぁ……なんかうまく丸め込まれちゃった気がするなー。青島くんのくせに……」


「誰かさんと口論するうちに、前より口が回るようになったのかもなー」


「まぁ、いいや……そういう事にしといてあげる」


 

 俺が人生でしてきた沢山の選択が、合っているのか、間違ってるのかは、分からない。俺が今まで無くしたものも、捨てたものも、選ばなかったものも、世界のどこかには全部確かに存在していて、今の俺を作ってる。欲しいと思ったものを、無くしてしまったものを、手に入れられなかった過去があるから、人はもう一度頑張ろうと思えるんだ。何もないことが――このどうしようもない劣等感こそが、俺の原動力なんだ。


 ――振られてばかりの人生で、良かった。


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