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サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜  作者: 野谷 海
第3部 巴

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第55話 ラブレター。




 ふぅ……と、小さく深呼吸を挟んで、小浦は続ける。

 

「あたしは去年その場所で青嶋くんに告白されて、これからも友達がいいと返事をしてしまいました……でも今日はそれをもう一度やり直したくて、ここに立つことを決めました。とても緊張しているので、うまく言えるか分かりませんが、温かい目で見てくれたら嬉しいです……」


 女の子が……しかもよりにもよってこの学園のアイドルとして名高い小浦舞が、まさかこの壇上に上がってくるなど、誰が予想しただろうか。この展開がもし俺の想像通りだとしたら、俺は恐らく彼女を大いに傷付けることになってしまう。経験しているからこそ、去年の俺のような気持ちにはなって欲しくない……それだけは避けたい。その思いで、途中で口を挟んでしまう。

 

「ちょっと待ってくれ小浦、それはわざわざこんなに大勢の人の前で言う必要があるのか?」


「じゃあなんで青嶋くんは去年、そうしたの? あたしだって、きっと去年の青嶋くんと同じ気持ちだよ? 今回はあたしにとっても崖っぷちだから、このくらい思い切ったことしないと勝ち目ないって思ったんだもん……」


「だからって……」


「青嶋くんお願い。あたしは今、この場所で聞いて欲しいんだ……」


 小浦には、今までも何度かお願いをされたことがあった。でもそれのどれとも当てはまらない初めて見る表情は、彼女の覚悟を物語っていた。

「分かった……」


「ありがとう。あたし、こういうの初めてだから……自信なくて、思ってること全部、手紙にしてきたの。だから読みながらになっちゃうけど、許して下さい」


 そう言って小浦がポケットから手紙を取り出すガサゴソという音を、マイクが拾った。小浦は小さな咳払いをした後、胸に手を当て深呼吸をすると、手紙を読み始めた。


「青嶋くんへ――今まで沢山メールのやりとりはしてきたけど、初めて手紙を書きます。先にネタバレをすると、これはラブレターです。今まで隠してきたけど、あたしは青嶋くんのことが好きになってしまいました。3回も告白してくれたのに、それを全部断っちゃったあたしが、今さら何をって思われるのが怖くて、ずっと言えませんでした。でも……それも今日で終わりにします。初めて告白してくれた花火大会の日、花火が始まってすぐのことだったから、告白するならせめてフィナーレのタイミングにしてよって、正直思っちゃった。それに走ってどっか行っちゃうし、勝手な人だなぁとも思ったよ?」


 会場から、和やかな笑い声が聞こえた。


「でも……そのイメージは2回目の告白で少し変わりました。今まで告白されたことは何度かあったけど、2回も言ってくれた人はいなかったから、すっごく嬉しかった。3回目の突然の電話は、出ようか迷ったんだ。もしまた告白だったら、この電話に出たら青嶋くんとは、もう友達ですらいられなくなるかもしれないって思ったから。でも……でちゃった。久しぶりだったから、声聞きたくなっちゃった。そしたら、思ってた通りそれから話すこともなくなって、同じクラスになったのに、余計に距離が開いたみたいに遠くなった。たぶん、青嶋くんとはもうこのまま話すこともなく卒業しちゃうんだって思ったら、急に寂しくなって、目で追うようになってた。青嶋くんが教室で他の女の子の名前を出すたんびに嫉妬しちゃって、あ、これ好きなんだって気付いた時には、青嶋くんにはもう彼女が出来てた。でも愛里那ちゃんと別れたって聞いた時、あの日、青嶋くんが先生に呼ばれたのを知ってて、わざと教室に残ってたんだ。ねぇ青嶋くん……あたしあの日、すっごく勇気出したんだよ? でも喧嘩みたいになっちゃって……本当に言いたいことは……全然言えなかった……」


 小浦の声が震えだし、時折上を向く姿や、鼻をすする音に、俺は強く胸を打たれた。

 

「……もう先に言っちゃったから……恥ずかしくない。あたしは……青嶋くんが好き。もし今青嶋くんより、優しくて、イケメンで、お金持ちで、おもしろくて、背の高い男の人に何回告白されたって……お断り。あたしは、青嶋将くんが、宇宙で一番……大好きです……」

 

 会場は――まるで俺たち2人しかいないような静けさだった。小浦が手紙をしまう音だけが、館内に響いた。


 この静けさは、俺の返答を待っている。答えは既に決まっていた。でもこれをどんな表情で伝えるか、それだけを悩んでいた。俺は、小浦にはずっと笑顔でいて欲しい。その為にはまずは俺が、笑顔にならなきゃ。そう思って、渾身の作り笑いを浮かべて、泣きながら返事をした。

 

「ありがとう、めちゃくちゃ嬉しい。でもごめん、俺、好きな人がいるんだ」


 すると小浦も、つられて笑う。

 

「知ってるよ……バカ……」


 俺は嬉しくて、また泣いてしまった。


 

 俺たちは2人してその場から動けなくなってしまい、小浦は後藤さんに、俺は竜に肩を担がれ体育館を後にした。放課後に行われた文化祭の打ち上げには、小浦は姿を見せなかった。


 打ち上げが終わり、解散の流れになると、小浦からメールが届いていた。恐る恐る開いてみると、その文面には、小浦舞という人間が詰まっていた。どうやら俺は、彼女を見誤っていたようだ。たったひと言だけ、しかも英文なのは、俺には意味が分からないとでも思ったのだろうか。馬鹿にされたもんだが、俺だってこのくらいは知ってる。なぜなら今の俺にとって、何より嬉しい言葉だったから。


「to be continued」


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