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サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜  作者: 野谷 海
第3部 巴

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第53話 感謝の叫び。




 キッチンワゴンで運ばれてきたオムライスには、可愛いクマの絵がケチャップで描かれていた。それを見た小浦は、まるでお子様ランチが目の前にきた子供のように喜んだ。

「すごーい、これ誰が描いたの?」


「……聞かない方が良いと思うけれど」


 そんなことを言われてしまうと益々気になった俺たちがしつこく尋ねると、後藤さんは溜め息まじりに答える。

「戸狩くんよ……」


 俺と小浦は、絶望の淵へと叩き落された。

「この世には、知らない方がいいこともあるんだな……」

「そうだね……ごめん青嶋くん、あたし、反省する……」


「だから言ったじゃない、私は止めたわよ? じゃあごゆっくり……」


 後藤さんがその場をそそくさと離れようと振り返ったところを、逃がすものかと言わんばかりの形相で、メイド服のスカートの裾を掴む小浦。

「……姫、なにか忘れてない?」


「わ、忘れてなんか、いないわ……舞、手を放して……?」


 心なしか、メイドさんはプルプルと震えているように見える。


「あたし見てたよ? さっきあのテーブルのお客さんのオムライスにおまじないをかけてるとこ……」


 後ろを向いていたから、これが彼女によるものなのかは定かではなかったが、確かに舌打ちの音が聞こえた。振り返ったメイドさんは満面の笑みだったが、額には3本の筋がクッキリと浮かんでいる。

「お嬢様、そしてご主人様、このオムライスはおまじないなんかなくても十分においしいので、どうぞこのままお召し上がりください」


 これも気のせいかもしれないが、小浦を止めろと、俺への無言の圧力のようなものを視線から感じた。

「ま、まぁ小浦、メイドさんの言う通り今のままで十分おいしそうだし……」


「はぁ? 青嶋くんは見たくないの!?」


 ――そんなの、見たいに決まってる。

「……出来れば動画に収めたい」


「でしょう!? ねぇ姫、お願い……!」


 後藤さんは突然寝返った俺の顔を一瞬睨みつけると、諦めたように肩を落とした。

「……では、オムライスがもっとおいしくなるおまじないを致します……」


 期待に胸を膨らませて俺はジッと見つめ、小浦は即座に準備していたスマホのカメラを向けていた。手でハートマークを作り、オムライスへ向けるメイドさん。

「美味しくなぁれ、萌え萌え、きゅん……」


 ――恥じらいと、あどけなさが絶妙にマッチしたこの魔法は、俺と小浦を完全にフリーズさせた。動画の録画停止ボタンを押すのも忘れて見惚れる小浦は、「も、もう一回!」と、おかわりを申し込む。


 後藤さんは両手で顔を隠し屈みこんで「もうイヤ……」と、羞恥心を露わにした。それがまた、よかった……。



 オムライスを半分こして食べ終わると、もう一品が届く。後藤さんが俺に選んでくれた料理は、パフェだった。高さもあり、かなりのボリュームだ。

 

「あ、アイス、チョコもバニラもどっちも入ってるから、今度は喧嘩しなくて済むね?」


 無邪気に喜ぶ小浦の表情は、とても穏やかで癒される。パフェを完食して満腹になった俺たちが店を出ようとすると、後藤さんがお見送りに来てくれた。

「行ってらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様……」


「ごちそうさま、どっちもうまかったよ!」

「ありがとう姫、すっごく楽しかった!」


「そう、良かったわ……あとで私も、焼鳥、買いに行かせて貰うわね」


「その頃には完売してるかもだから、なるべく早く来いよ?」

「青嶋くん、そんな訳ないじゃん。姫、ゆっくりでいいからね?」

 

「分かんねーだろ? もしかしたら突然大富豪が現れて全部買ってくれるかもしれないし」

「そんなのに期待しないで、地道に売るの!」


 俺と小浦の口論を見て微笑んだ後藤さんは、戸狩に呼ばれ「またあとでね」と、言い残し教室の中へと戻っていった。


 店に戻ると、昼過ぎの段階で売れた焼鳥の数は150セット、まだ目標の半分だった。

「順調とは、言えないか……」


「そうだね、もうみんなお昼食べちゃっただろうし……」


 そこへ鼻歌まじりの陽気なおじさんがやってきた。

「やってるかー?」


「社長、ホントに来てくれたんですね! ご機嫌ということは……まさか……」


 ニンマリと満面の笑顔の社長は、ピースサインを向ける。

「久しぶりの大勝ちだ……10セット貰おうか」


「毎度、ありがとうございます!」


 社長は注文した焼鳥を受け取ると、1セットだけビニール袋から取り出して、残りを全て俺に渡してきた。

「これはクラスのみんなで食え。自分の焼いた串を食べるのも勉強だ」


 なんと言うか、大人のカッコ良さみたいなものを感じざるを得なかった。俺も将来、誰かを導けるような、こんな大人になりたいと思った。



 その後、後藤さんが串を買いに来てくれ、メイド喫茶でも宣伝してくれたおかげで、なんと初日で400セットを売ることが出来た。翌日も人気が衰えることはなく、昼過ぎには予定していた600セット全てが完売となった。クラスのみんなと話し合った結果、材料を買い足すことはせず、焼鳥一歩はこれにて閉店の運びとなる。


「みんな、本当にありがとう。達成出来るとは、正直思ってなかった……この後は、みんな自由に文化祭を楽しんでくれ……」


 つい感極まって、涙を流してしまい、クラスメイトからイジられてしまったが、この経験は間違いなく俺にとってかけがえのないものとなった。


 小浦も少しだけ、涙ぐんでいた。

「青嶋店長、お疲れさまでした……」


「小浦がいてくれたから達成出来た。本当に感謝してる……」


「ううん、そんなことない。青嶋くん見てたら、あたしも勇気出さなきゃって思った。……こっちこそありがとうだよ」


 今朝から、小浦の様子がいつもと違うように感じていた。気のせいだろうと思っていたが、やはりどこか元気がない。

「小浦、なんかあったか?」


「全然、いつも通りだよ?」


「ならいいんだけど……」


 午後からはなぜか竜に誘われて、男2人で文化祭を見て回った。一番こういうのを嫌がる奴のくせに、絶対におかしい。何か企んでいるのかと怪しんでいると、時計を見た竜が「そろそろか……」と呟き、体育館まで連れられる。

「オイ竜、一体なんのつもりなんだ!」


「いいから……行ってこい!」


 ――体育館では現在「感謝の叫び」が行われていた。無理やり体育館の中へ押し込まれると、マイクを通した声で司会の生徒がアナウンスをする。


『続いての感謝を伝えたい生徒は、2年3組の小浦舞さんです!』


 ――壇上に現れた小浦は、何故かメイド服を着ていた。

 

 

 

 

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