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サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜  作者: 野谷 海
第3部 巴

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第50話 トラブル。




 文化祭初日の朝、いつもより1時間ほど早く登校した俺は、1人で最終確認をしていた。校舎には俺と同じ考えの生徒が他にも数名見受けらる。昨日の放課後に建てておいたテントに異常がないかの確認を終えると、段ボールの中にしまってあった備品のチェックをしていた。


 俺が数日のあいだ風邪で寝込んで生じた遅れは、小浦の指揮のもとクラスメイト達が協力して穴を埋めてくれたらしく、店の外観はそんなことを一切感じさせないほどの仕上がりになっていた。あとは、美味しいものを提供するだけ……感慨深く感傷に浸りながら店舗を眺めていると、背後から声がした。


「青嶋くん、早く来るなら……あたしも誘ってよ」


 振り返ると、あの日と同じエプロン姿の小浦がいた。

「小浦には迷惑かけたから、当日くらいは少しでもゆっくりしてほしくて……」


 なんとなく分かってはいたけど、思った通り、腰に手を当てムスッとした顔で反論してきた。

「当日に頑張らないで、他にいつ頑張るのー?」


「それもそうだな、このお礼は必ずするから……」


「2人きりって約束、忘れてないからね?」


 小浦は、さっきまでの怪訝な顔から一転、いつもの素敵な笑顔に戻っていた。彼女とこれまで一緒にやってこられて心から良かったと思う。小浦とじゃなきゃ、きっとここまでのお店には出来なかった。この感謝の気持ちは、全てが終わった時に伝えようと、のど元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。



「炭は今日、届くんだったよな? 何時だっけ?」


「8時までにお願いしますって伝えてあるけど、まだ来てない?」


「もう過ぎてるな……一応、電話で確認しておいて貰えるか?」


 小浦は「分かった」と言いながら辺りをキョロキョロと見渡すと、地面に置いてあった自分の鞄から膝をついてスマホを取り出した。そのままの体勢で電話をかけると、しばらく話した後に「えっ……!?」という驚嘆の声が聞こえる。


「なにかあったのか?」


 俺が近づいてそう尋ねると、顔だけ振り返った小浦は、見たことがないほど青ざめていた。

「どうしよう……青嶋くん。あたし、間違えて注文しちゃった……」


 小浦の話を詳しく聞くと、確かに注文はしたが、間違えて明日の日付で頼んでしまっていたという事実が発覚する。放心状態だった小浦から電話を借りて担当者と話すと、頼んではみたがやはり今日中に配達するのは難しいという返答が返ってきた。


 分かりました、と電話を切った俺は何か代替案はないか、目を閉じて考えていた。すると、俺のブレザーの裾を引く、小さな力を感じる。目を開けると、大粒の涙を溢れさせながら何度も、何度も謝罪の言葉を小さな声で絞り出す小浦が、俺を見つめていた。


「小浦だけの責任じゃない……確認していなかった俺も同罪だから。今はこの状況をどうするか、2人で考えようぜ?」


 涙をこすりながら、なんとか上を向こうとする小浦だったが、その姿はどこか無理をしているように映った。

「うん、分かった……でも、ホントにごめんなさい……あたしのせいで……」


「……それ以上謝ったら、今日小浦には水着で接客してもらうぞ?」


「それは……ちょっと寒そう……」


「だろ?」


 こんなことで、失敗する訳にはいかない。小浦に自分を責める口実を作らせてはいけない。ここまで頑張ってくれた小浦に感謝することはあっても、彼女を責める気持ちなんて、俺は微塵も持ち合わせてはいなかったから。

「俺、近くのスーパーとか回ってみるよ。小浦は他のクラスの飲食店で、もし炭を使う所があれば少し借りられないか聞いてみてくれないか?」


「分かった、聞いてくる……」


 こうして二手に別れた俺たちは、文化祭開始までの残り1時間弱の間、あちこちを走り回った。



 2軒目のスーパーで店員さんに炭を売っているか尋ね終わると、電話が鳴る。

「青嶋くん、他の飲食店全部に聞いてみたけど、あたし達以外で炭を使ってるお店はないって……どうしよう……これじゃ間に合わないよ……」


「こっちもダメだった……でもまだあと30分あるし、ギリギリまで探してみるよ。もしもの時の為に、そっちは学校の備品でホットプレートとか余っていないか生徒会に聞いてみてくれ!」


「分かった……」


「小浦!」


「なに……?」


「絶対諦めんなよ? ……小浦がいてくれたから、俺は今までこの学校で楽しく過ごすことが出来た。だから小浦には、俺以上に笑顔でいて欲しいんだ。ただの俺のワガママに、もうちょっとだけ付き合ってくれないか?」


「あたし……青嶋くんと一緒のクラスになれて、良かった……」


 小浦の声は、震えていた。

 

「俺もだよ」


 電話を切って、すぐに自転車を走らせる。俺の地元より、少しだけ栄えた街並みも、道端を歩いている綺麗なお姉さんも、今はどうでもいい。俺は自分の夢と大切な友達の為に、ここで簡単に諦める訳にはいかないんだ。


 

 3軒目のスーパーでも、今の時期に炭は売っていないと断られた俺は、スマホで辺りのスーパーを検索しながら次の目的地を探していた。すると、突然画面が切り替わり、震え出す。急いでいたから少しイラッとしながら確認すると、電話をかけてきた相手の名前は表示されず、番号だけが映し出されていた。つまり、登録していない、知らない相手からの電話だ。


 こんなこと滅多にない出来事だから、警戒しながらも通話ボタンを押した。

「もしもし……」


「青嶋か? 儂だけど」


「その声は……もしかして社長ですか?」


 

 



 

 

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