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サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜  作者: 野谷 海
第3部 巴

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第49話 見舞いと利害。




 翌日になっても、俺の熱はまだ下がらなかった。

 

 デジャブのようにインターフォンが鳴ると、今度は後藤さんが立っていた。

「えーと……遊びに来たのか?」


「そんな訳ないでしょう? あなたのせいで舞は手が離せないから、代わりに私がお見舞いに行くよう頼まれたのよ」


「別に毎日来てもらわなくても……ただの風邪だし……」


 このタイミングで「ぐうぅ〜」と、俺の腹の虫が情けない音で鳴いてしまう。

 

「はぁ……舞の言っていた通りね。どうせ今朝から何も食べていないんでしょう?」


「寝てたから……」


「何か作るから、上がらせてもらってもいい?」


「どうぞ……」


 後藤さんは俺の部屋に鞄を置くと、台所の場所を尋ねた。

「調理器具とか、勝手に触ってもいい? ちゃんと後片付けはしておくから」


「もちろん、好きに使ってください……」


「さっきからそんなに畏まって、どうしたの?」


「なんか申し訳なくて……後藤さんも、文化祭の準備あったんじゃないか?」


「私達のクラスはちゃんと計画を立てて準備しているから、1日くらい休んだって平気よ。戸狩君もあなたのこと、心配していたわ……」


「そっか……ありがとな」


「じゃあ休んで待ってて、すぐに作るから」



 後藤さんは、病人に優しいうどんを作って、俺の部屋まで運んできてくれた。

「食べられそう?」


「うん、美味そう……」


 俺は特に何かを期待していた訳ではないが、ジーッと後藤さんを見つめていた。

 

「なに……?」

 

「いや、なんでもない……」


「まさかとは思うけれど、食べさせて貰えるとでも思ったの?」


「そんなこと、思ってねーよ……」


 後藤さんは顔を背けながら、らしくない言葉を並べた。

「でも……どうしてもって言うなら、こういう状況だし、考えなくもないけれど……」


「え、どうしたんだ? そっちこそ熱でもあるんじゃないか?」


「違うわよ、交換条件があるの……」


「なんだよ……ついに後藤さんがツンデレ属性に目覚めたのかと思ったのに……」


「呑むの? 呑まないの?」


「とりあえず、内容を聞いてからだな」


「クラスでメイド喫茶をやるって言ったでしょう? 私に用意された制服だけ、何故かみんなと少し違うの……」


「どう違うんだ?」


「異様に露出が多くて……これなんだけれど……」


 顔を赤くしながらスマホで画像を見せてきたから、どんなもんかと見てみると、想像の3倍エロかった。見た感じ部屋で1人で撮った写真だから良いものの、これを全校生徒に見られるのは、なんか嫌だ。間違いなく、見せるだけでお金がとれる。でも……生で見たいという欲求も確かにあった。


「これは、すごいな……」


「みんなが推すから、断りきれなくて……あなたから戸狩君に制服を変えて貰えるように頼んでくれないかしら……?」


「後藤さん、意外と押しに弱いんだな」


「もし引き受けてくれたら、もう少しくらいならそっちの要求にも相談にのるから……」


 こんなチャンス二度とないかもしれない、さぁ商談を始めよう……とも考えたが、思いとどまった。

「そんなのいいよ、俺から戸狩に伝えておく。安心してくれ、後藤さんが本気で嫌がってたって言えば、アイツは分かってくれる奴だから」


「ありがとう……青嶋君。うどん伸びちゃったかしら……私、上手く出来るか分からないけど……口開けて?」


 後藤さんは、小皿に取り分けたうどんをフォークでクルッとパスタのように巻いて、近付いてきた。昨日風呂に入れなかったから、臭くないか心配になるくらい、近い。

「それもいいって!」


「いいの、これはせめてものお礼だから……」


 まさか2日連続で美少女にご飯を食べさせて貰えるイベントが発生するなんて思ってもいなかった。まるで、幼児退行したかのような気分だ。



 うどんを食べ終わると、後藤さんが持ってきてくれたグラスの水で薬を流し込んだ。

 

「じゃあ後は、ゆっくり寝るだけね」

 

「ごちそうさま、美味かった……」


「あなたが眠るまで、ここにいるわ……何かあったら声かけて? そこの漫画読んでもいいかしら?」


「なんでも自由に使ってくれて大丈夫だし、いつでも帰ってくれていいからな?」


 目を閉じていると、すぐに眠気が襲ってきたから、俺はそのまま眠った。次に目を覚ます直前に、頬に気持ちの良い感触があったから、無意識にそれを掴んで目を開けた。


「え……」


 驚いた理由は、俺が掴んでいたのは後藤さんの手で、彼女の顔が、すぐ目の前にあったからだ。


「なんで……まだいるんだ?」


 詳しい時間は分からないけど、体感では結構眠っていた気がする。いやそんなことよりも、これって多分、俺の寝顔を見つめながら頬を触っていた訳で……まるで眠り姫を見つめる王子様的な逆シチュエーションだよな……。俺が状況整理に時間を取られていると、後藤さんは焦ったように早口で話し出す。


「あ、あんまり気持ち良さそうに眠っていたから、ちょっと眺めていただけよ。そろそろ手、放して……」


「あ、あぁごめん……」



 しばらく気まずい雰囲気が室内に流れたが、突如玄関からドタドタと誰かが走ってくる音が聞こえた。まぁこの家の中で走る奴は1人しかいないんだけど。

「あ、今日はヒメちゃんがいる」


「美波ちゃん、こんにちわ」


「ヒメちゃん、わたしの部屋で遊ぼ?」


「そ、そうね……何をしようかしら」


 後藤さんの手を引いて部屋を出ていく際、美波は捨て台詞を置いていった。

「毎日みんなが遊びに来てくれるなら、おにぃはずっと風邪引いてていーよ」


「お前、兄にすっごく酷い事言ってるの気付いてるか?」


 涙を堪えながら、俺はまた眠る。先ほどの、俺が目覚めた瞬間に見せた後藤さんの驚いた表情を、夢にまで見た。

 

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