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サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜  作者: 野谷 海
第3部 巴

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第40話 ブラックジャック。




 

「いらっしゃい。来てくれて、ありがとう……」


「まぁ、乗り掛かった舟だしな……」


 迎えてくれた後藤さんは、エプロン姿だった。もしも第一声が「おかえりなさい」だったとしたら、俺は昇天していたかもしれないほどの破壊力だ。ぜひ写真に収めたいと思ってしまうも、なんとか理性を保ったつもりだったが、俺の視線を不審に思ったらしい。


「……なに?」


「いや、エプロン姿が似合うなあと思って……」


「……いいから、早く上がって」


 心なしか、彼女は珍しく照れているように見えた。


「一応、手土産持って来たんだけど……」


「ありがとう……気を使わなくても良かったのに」


「大したものじゃないし、手ぶらでお邪魔するのも気が引けたから。後藤さんコーヒー好きだろ?」


「へ、へえ……青嶋君にしては、趣味がいいわね……」


「素直に褒めらんねーのかよ」


「十分に素直な感想よ」


 玄関で立ち話を続けていると、左側にあるドアの陰から風香さんが顔を覗かせた。

「お、来たか弟よ!」


「まだ弟じゃないですよ」


「まだ……ね。母さーん、未来の息子が来たよー!」


 風香さんの呼びかけで、廊下の奥の扉が開く。


「あらあらあらあら、いらっしゃーい!」


 両手を振りながらハイテンションで現れたお母さんは、この姉妹の母だけあってめちゃくちゃ美人だった。風香さんの年齢を考えても恐らく40代だとは思うが、見た目年齢は30代前半か、もっと若いと言っても過言ではない。顔の系統や雰囲気は風香さんに似ていて、もはや三姉妹と言われても不思議ではないと思った。


「はじめまして、姫華さんとお付き合いさせていただいている青嶋将です。よろしくお願いします……」


「聞いてるわよ~。挨拶はいいから、上がって上がって!」



 お母さんに手招きされてリビングへ通されると、言われるがまま四人掛けテーブルに座った。お母さんは俺の真ん前の席につくと、早口で話し始める。

「青嶋君は嫌いな食べ物ある? 姫華から鶏の唐揚げが好きって聞いてたから、あの子頑張って沢山作ってたのよ?」


「お母さん、余計なこと言わないで!」


「いいじゃないケチ、私だって青嶋君とおしゃべりしたいんだもん」


 お母さんはまたすぐにこちらを向き、手を口元にやって小さな声で尋ねる。

「ねぇねぇ、姫華とはどこまでいったの? 遠慮しないでいいから教えて?」


「お母さんっ!! ごめんなさい青嶋君、やっぱり料理が完成するまで、私の部屋で待っていて?」


「姫華ごめんってばぁ、もう変なこと聞かないからぁ……」


「信用できません。青嶋君、こっちへ来て」


 後藤さんがスタスタと進んで行ってしまったから、慌てて立ち上がる。

「すみませんお母さん、また後でゆっくりお話しさせてください……」


「はーい、楽しみに待ってるね~」



 後藤さんの部屋は、イメージ通りのシンプルな部屋だった。折り畳みベッドに低めの本棚が2つ、勉強机と全身鏡の他には何も目立つものがなかった。変わっているところと言えば、本棚の上のハムスターゲージくらいだ。


「こいつが例のハムスター? 名前なんて言うの?」


「ジャンガリアンの『ジャン』よ」


「そのまんまだな……」


「あなたの『しぃ』よりマシだと思うけれど」


「それを言われると、言葉がでんな。オスとメスどっちだ?」


「オスよ」


「ならジャンくんだな。初めまして、ジャンくん」


 俺が挨拶をすると、ジャンは回し車をカラカラと音を立てて走った。

「かわいいなこいつ……」


「ペットは飼い主に似ると言うもの」


「ホントだなぁ……」


「じょ、冗談のつもりだったのだけれど……」


 つい本音を口走ってしまい、どんな顔をしているのか気になって振り返ると、彼女は頬をこれでもかと紅潮させていた。はい、反則です。レッドカード!


「……てかさ、お母さん若すぎないか?」


「そお? 今年で45歳だったはずよ?」


「マジかよ! ウチの母親と歳近いのに大違い過ぎるぞ。てか、年齢教えて良かったのか?」


「それもそうね……今のは聞かなかったことにしてくれるかしら。じゃあ私、料理の仕上げをしてくるから、好きに本でも読んで待っていて。出来たらまた呼びに来るわ」


「分かった。俺にでも理解できる優しめの本ってある?」


「本棚の隅に小さい頃呼んでいた絵本があるわ。少し難しいかもしれないけれど、桃太郎やジャックと豆の木なんて知っているかしら? 名作よ」


「後藤さん、今日は一段と黒いぞ」

さっきまで顔が桃みたいな色してたくせに……。


「光栄ね。私、黒が好きだから……」


 後藤さんはそう言い残すと、俺は彼女の部屋に取り残された。


 

 改めて部屋の中を見渡すと、なぜか緊張してしまう。後藤さんの匂いで溢れている部屋に俺一人。どうしてもよからぬ考えが頭を巡る。邪念と闘いながら、ジャンがカリカリとひまわりの種をかじっている姿を見つめていた。


「お前は毎日、後藤さんと一緒で羨ましいなぁ。着替えだって、覗き放題だよなぁ……」

 

 ハムスターに向かって心の声をポロッとぶつけたと同時に、扉の方から視線を感じた。

「見ーちゃった、聞いちゃった……」


「ふ、風香さん……!」


 ……この世で一番弱みを見せたくない人間に、一番見られたくない瞬間を見られてしまった。悪魔のような微笑みを浮かべたエッチなお姉さんが入室してくる。


「青嶋君、いや将君、ようこそ後藤家へ。さっそく婚姻届けを出しに行こっか。いや~まさか妹に先を越されるなんてね~……」


「風香さん、俺まだ結婚出来る歳じゃないです。なんでも言うこと聞くんで見なかったことにして下さい」


「え~。せっかく21歳の誕生日プレゼントとして最高だと思ったのに……」


「靴舐めます」


「それは君にはご褒美にならない?」


「断じてそんな気質はありません!」


「よいしょっと……」


 風香さんはホットパンツを履いていたのにも関わらず大胆に胡坐をかいて座った。俺は慌てて斜め上を見つめる。

「風香さん! パンツ見えちゃいますよ!?」


「あ、ごめんごめん、ついいつもの癖で……これならどう?」


 視線を戻すと、ベッドに置いてあったクッションを股の上に置いていた。

 

「座り方は変えないんですね」


「だってこっちの方が落ち着くし」


「ところでさっきの話ですが、交渉の余地はありますか?」


「ホ別2でどお?」


「……風香さん、本気にしますよ?」


「この2の単位は億だけどね」


「……風香さんなら、妥当だと思います……」


「君は高校生なのによくこんな言葉知ってるね~」


「バイト先でお客さんの話とか聞いてるんで……って、そんなことはいいんですよ」


「じゃあ冗談は終わりにして……」


 いつものふざけたような表情から一瞬にして真顔へ豹変した風香さんは、俺にグッと近寄って、耳元で囁くように問いかけた。

「……青嶋君、私と寝られる?」


 フワッと香るいい匂いに、目眩がしそうだった。

「はい……?」

 

 ――この人は……本当に何を考えているんだ?

 



 

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