表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜  作者: 野谷 海
第1部 夏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/72

第16話 バニーガール。



 いろいろと慌ただしかった夏休みも終わりが近付き、重い気持ちでアルバイトに臨んでいた俺はこの日、ミスを連発してしまった。社長は「そんなこともある」「気にするな」などと言ってくれたけれど、優しくされると余計に沈んでしまっていた。


 帰宅しようと着替えて外へ出ると、月がいつもより明るく感じた。ため息を溢しながら自転車の鍵を取り出すと、この日シフトが被っていた後藤さんに呼び止められた。

 

「青嶋君、話があるのだけど……」


「どうしたんだ? そんな改まって」


「実は……」

明らかにいつもと雰囲気が違った。月明かりに照らされている彼女の顔は、うっすらと赤くなって、俺とは目を合わせずに両の手をもじもじと握り合わせていた。

「私の……彼氏になってほしいの……」



 ――姫華が出勤する2時間前のこと。


 家でアルバイトの準備を早めに終えた彼女は、自室で飼っているハムスターに餌をあげていた。すると玄関の扉の開く音が聞こえる。姫華は母親と二人暮らしで、まだ母の帰宅時間ではなかった為、不審に思い様子を見に行った。


 そこには玄関に座り、膝下丈の黒いブーツを脱いでいる、少し癖のある長い黒髪の女性がいた。その女性は肩を露出した白のトップスに黒のミニスカートという服装で、男子ウケしそうな大人の色気を漂わせている。

「あ、姫華いたんだ。ただいまー」


「ね、姉さん、急にどうしたの?」

姫華から姉さんと呼ばれているこの女性の名は、『後藤 風香(ごとうふうか)』。今年で21歳になる姫華の実の姉である。現在は自立して一人暮らしをしており、家族とは離れて暮らしている。


「偶然近くを通ったから……今日めっちゃ暑いし少し涼もうと思ってさー」


「そ、そう……」


「姫華は、最近どう?」


「別に、変わらないわ」


「彼氏、まだできないの?」


「何よいきなり……」

姫華は姉と会うたびに聞かれるこの質問が嫌いだった。


「あんた、男っ気全くないから姉として心配してんのよ。いい加減、彼氏の1人や2人くらい紹介してもらわないと」


「そんなこと、どうでもいいじゃない……」


「よくないわよ。男で失敗して、それで母さんがどれだけ苦労してきたと思ってんの? あんたには同じ失敗して欲しくないから、今の内からちゃんと恋愛しろって言ってんの」

風香の顔が少し険しくなり、徐々に声量を上げて返した。


 腹を立てた姫華も反論し、いつもの姉妹喧嘩に発展してしまう。

「いつもいつも、子供扱いしないで。私はもう、自分の事は自分でどうにか出来るわ」


「へぇ、ろくに恋もしたことないガキが生意気言うじゃん」


「彼氏くらい……いるわよ」


「ええ、そうなの? どんな人? 良かったねぇ姫華!」

風香の顔は嘘のように解れ、自分の事のように喜び、そして祝った。


「お、同じバイト先の人……」

引くに引けなくなった姫華は嘘に嘘を重ねる。


「じゃあ今日その人に会わせなさい。まともな奴かどうか確かめないと」



 ――そして現在、たまだの前。

 

「――ということがあったの……」


「経緯は分かったけど、なんで咄嗟に出た名前が俺だったんだ?」


「私と親しい男の友人は、青嶋君だけだから……」


 正直、飛び上がりそうなほど嬉しかった。さっきまで落ち込んでいた事など、もう俺の頭からは抜けていた。

「そういうことなら……」


「じゃ、じゃあ彼氏のフリ、お願いしてもいい?」


「後藤さんの姉さんにも会ってみたいし、俺で良ければ喜んで」


「ありがとう。もうすぐ姉がここに車で迎えにくるはずだから……」



 5分ほどして、軽自動車が路肩に停車した。

 

「き、来たみたい」


 車に近付き窓から車内を覗いて挨拶をしようとしたが、俺は言葉を失う。なぜならその車を運転していたのが、バニーガールの恰好をしたエッチなお姉さんだったからだ。一番に目がいったのは、本当に姉妹かと思ってしまうほど、大きくてご立派な胸部だった。


 車窓が開くと、後藤さんは声を荒げた。

「ね、姉さん、なんなのその恰好は!」


「ごめんごめん、早く会いたくて仕事終わってそのまま来ちゃった。……君が青嶋君?」

風香さんは視線を俺へ移す。


「は、はじめまして。よろしくお願いします」


「姫華~、あんたこーゆーのがタイプだったんだぁ」


「そ、そうよ、悪い? 会わせたんだからもういいでしょ?」


「ダメ。2人とも、後ろ乗って?」


「無理言わないで。青嶋君には終電が……」


「私がちゃんと家まで送ってあげるから」


 

 風香さんに言われるがまま、俺たちは車に揺られていた。どこへ向かっているのかは知らないが、移動中の会話でこの人の素性が分かってきた。昼はOL、夜はバニーガールのコスプレをした女性が接客してくれるガールズバーで働いているらしい。見かけによらず働き者のお姉さんだった。


「青嶋君も大人になったらウチのお店来てね?」


「は、はい……」


「ハハハ、そこは断りなよ、彼女の前なんだからさぁ」


「そ、そうですよね~。ごめん後藤さん」


「い、いえ、いいのよ青嶋君」

俺たちはよそよそしくも恋人のフリをしていた。 


「君たち、まだ苗字で呼び合ってるの?」


「ふ、二人の時はちゃんと愛称で呼んでるわよ?」


「へえ~、なんて?」


「しぃって……」

嘘はついていない。この呼び名が、意外にもこんなところで役に立った。


「じゃあ青嶋君は?」


「ひ、姫って呼んでます」

小浦が……。


「そっかそっか。青春だね~」


「ところで、これどこに向かってるんですか?」


「私こんな格好だから行けるとこ限られてるけど、いいとこだから楽しみにしてて」



 次に車が留まったその場所は、山の上にある展望台だった。車を降りるとキラキラと揺らめく夜景が綺麗で、満点の星空までくっきりと見えた。


「ここからの景色、いいでしょ?」


「はい……圧巻です」


「姫華、ちょっと向こうの自販機で全員分の飲み物買ってきて」

風香さんは後藤さんに千円札を手渡した。


「それなら俺が……」

と、名乗り出たが「いいから」とあっさり取り下げられてしまった。


 後藤さんの姿が見えなくなると、風香さんは俺と向かい合って、見透かしているかのような視線を送った。


「姫華と、本当は付き合ってないんでしょ?」


ここまで読んで頂きありがとうございます。

もし少しでも、おもしろい、続きが気になる、と思って頂けましたら、ブックマークやコメントなど頂けるととても励みになります。

今後とも『サンスクミ』を宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ