第14話 ウチくる!?
「な、なんで俺ん家に来たいんだ……?」
「そ、それは……そ、そう、家の鍵をね、さっきどこかで落としちゃって……」
取り繕ったような嘘を言う舞。
「マジかよ大変じゃん。なら早く警察に届けないと」
「た、たぶん川の中に落としちゃったから……」
「どこの? 探すの手伝うぞ?」
「い、いいのいいの! そんなことしてたら終電逃しちゃうでしょ?」
「でもだからってなんでうちなんだよ。後藤さんちは?」
「私は、この後ちょっと予定があって……」
姫華は咄嗟に話を合わせたが、これによって舞が1人で将の家へと行く流れになっていることに気付き、彼女たちは驚いた様子で顔を見合わせる。まさに打ち合わせ不足であった。
困った舞はまるで手話のようなジェスチャーで姫華へメッセージを送る。
(なんであんなこと言っちゃったの? 姫がいないと心細いよぉ……)
親友だからだろうか、なぜかその心の叫びは姫華に伝わった。姫華もすかさず身振り手振りで応答する。
(ごめんなさい、浅はかだったわ。でも舞なら大丈夫。勇気を出して!)
「お前ら、さっきからせこせこ何やってんの……?」
「なんでも、ないよ!」
「ええ、気にしないで……」
「じゃあそういうことなら仕方ないし、親に聞いてみるよ」
将は家に電話をかけて事情を説明した。
「なんか……美波の友達も泊まりに来てるみたいだからいいってさ」
「ありがとう、青嶋くん!」
舞と姫華は目を合わせてサインを送り合った。
(舞、頑張って!)
(ありがとう、姫)
だがこの時、将は不穏な空気を感じていた。
(美波の友達って……まさかな……)
家に帰り、玄関にあった見覚えのある靴を見た瞬間に募っていた不安が爆発し、将の背筋を凍らせた。
「将、おかえり~遅かったね! あれ~その子だぁれ~?」
靴を脱ぐ暇もなく、少しはだけたパジャマ姿の愛里那が玄関で出迎えをする。
舞は状況が全く整理出来ずに光を失った目でフリーズしていた。
「…………」
「こ、小浦、大丈夫か?」
「大丈夫かじゃないよ青嶋くん! この人だれ? 青嶋くん2人兄妹でしょ!? それにさっき将って下の名前で、しかも可愛いしなんかちょっとエッチなオーラ出てるし!」
鼻息荒く激昂する舞を、将は「どうどう」と静める。
「安心して? 将とウチはもう割り切った関係だから」
「おい愛里那! 勘違いさせるようなこと言うなよ!」
「あ、あおしまくんもこの人のこと、し、したのなまえで……わ、わりきった、かんけいって……や、約数のこと……?」
舞の頭からはあわや大火事になりそうなほどの煙が噴き出ていた。
「ハハハ、将、この子おもしろいね~」
「とりあえずお前はパジャマをちゃんと着ろ!」
将が舞を部屋に案内すると、不敵な笑みを浮かべる愛里那も一緒についてきた。部屋に入るなり、意識を取り戻した舞が口を開く。
「青嶋くん、説明してください。詳しく、赤裸々に、嘘偽りなく」
「え、えーっと、こいつは鰐渕愛里那。俺の元カノです」
「元カノでーす! よろしくー!」
舞の額には今にも無数の怒りマークが見えそうだったが、なんとか平静を装った。
「……聞きたいことは他にもあるけど、なんで元カノさんが、青嶋くんのおうちにいるの?」
舞のもっともな疑問に、愛里那の事情は伏せながらも、将は嘘偽りなく正直に話した。
「――そっか。じゃあホントに今はなんにもないんだね?」
「この前、ホテル行ったくらいだよね?」
愛里那はまたも爆弾を投下した。
「お前はまたややこしいことを!」
「ほ、ほてる……? 蛍見に行ったの聞き違いだよね?」
(それもちょっとやだけど……)
「…………」
「え? なにその間……」
「行ったけど、なんにもしてない……」
「美波ちゃーん、 助けて~! 青嶋くんが浮気夫みたいな言い訳してくる~!」
舞が泣き声で助けを求めると、隣の部屋からすぐに美波が駆けつける。
「おにぃ、マイちゃん泣かせたの? もうおにぃ嫌い、死んで」
「ぐはっ!! おい愛里那、どうにかしろぉ……」
「仕方ないなぁ。えっと……舞ちゃんだっけ? 将の言ってることは全部ホントだよ? この人が中途半端なことしないのは、君にも分かってるんじゃない?」
「そうだけど……これだけ状況証拠が揃ってたら不安になるよ……」
「どうして不安になるの?」
愛里那はしてやったりといった顔で尋ねた。
「それは……」
舞は途中で気付いてハッとする。あわやこんな状況で公開告白するところであった。
「それは……?」
「……と、友達として、そんな不純な状況見過ごせないよ!」
舞の急な方向転換が間に合ったことに、「チッ」っという愛里那の舌打ちが鳴る。
「と、とにかく、誤解が解けたなら良かった。小浦、疲れてるだろ? 風呂入って来いよ」
「いきなり風呂入れだなんて将ったらやらしぃ~。舞ちゃん、上がってきたら襲われないように気を付けてね~?」
「愛里那お前いい加減に――」
「ねえ……」
舞は将の言葉を遮ると、愛里那に問う。
「愛里那さんは、今日どっちの部屋で寝るつもりなの?」
「愛里那でいいよ。……どっちだと思う?」
愛里那は挑発するように問い返した。
「今日は、あたしが青嶋くんの部屋で一緒に寝るから……愛里那ちゃんは美波ちゃんの部屋に泊めてもらってよ」
「おい小浦なに言って……」
赤面した将の顔を見て、舞は慌てて補足をする。
「べ、別に変な意味じゃないよ!? 元恋人の 2人が一緒だと、間違いが起きちゃうかもでしょ? だから見張りをするって意味だから!」
その後、舞は青嶋家の風呂に浸かっていた。青嶋家の浴槽は決して大きくないが、低身長の彼女は肩までずっぽり埋まっていた。
「ちょっと、飛ばし過ぎちゃったかな……でもあの2人を一緒に寝かせるのは絶対危険だよ、うん。……でも2人きりで寝るの緊張してきちゃった。どうしよう、助けて姫~」
余計な考えを巡りに巡らせてのぼせそうになった舞は風呂から出ると、部屋の前で深呼吸をしてドアノブを握り、覚悟を決めて開いた。
「あ、舞ちゃんおかえり~!」
そこに将の姿はなく、居たのは愛里那だけだった。
「将は美波ちゃんの部屋で寝るってさ」
た、確かにその手があったか……と思うと、舞は急に恥ずかしくなった。消灯して横になると、愛里那が舞に声をかける。
「将は気付いてないから大丈夫だよ。色々イジワルしてごめんね? 舞ちゃん可愛くってつい」
「愛里那ちゃんは、なんで青嶋くんと別れたの?」
「将が優し過ぎたから……」
「どういう意味? それは嬉しいことじゃないの?」
「ウチはね、ずっと将を騙してたんだ。それに耐えられなかった。でもアイツは、それを知った今でもウチを一度たりとも責めなかった。それだけじゃなくて、心配までしてくれた。あんないい奴とこれ以上一緒にいたら、ウチはきっとダメになる。だから将には、アイツが辛い時にちゃんと支えてくれる人と一緒にいて欲しいんだ」
「愛里那ちゃんって、ただのチャラいギャルかと思ってたけど、意外と大人だ」
「なにそれ褒めてんの?」
「どうだろ……」
「オイっ」
――2人はこの時、初めて笑い合った。この女子会はもうしばし続く。
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